お知らせ

Stranger運営会社の株式譲渡について:Stranger代表 岡村忠征より皆様へ

2023/12/26

Strangerの運営移管のお知らせ

お客様、お世話になっている皆様

2023年12月26日
アート&サイエンス株式会社/Stranger
代表 岡村忠征

平素は格別のご高配を賜り、厚くお礼申し上げます。

本日、ナカチカ株式会社より発表がございましたとおり、映画館Strangerを運営するアート&サイエンス株式会社は、ナカチカピクチャーズを擁するナカチカ株式会社に 2024年2月1日をもちまして全株式を譲渡することになりました。これにより、映画館Stranger事業につきましても、2024年2月1日よりナカチカ株式会社が経営・運営を行うことになります。譲渡に関わる詳細は先述の発表をご覧頂ければと存じますが、この度の経緯について、私Stranger代表の岡村からも自分なりの言葉で皆様にご説明差し上げたく、本メッセージを掲載させて頂きます。

Strangerは、「映画を知る」「映画を観る」「映画を論じる」「映画を語り合う」「映画で繫がる」という5つの映画体験を一連のブランド体験として提供する、というコンセプトを掲げて2022年9月に設立されました。おかげさまで、コンセプトともども劇場の音響・映写の品質、作品の編成を含めて、多くのお客様にご評価を頂き、たくさんの皆様に温かく支えて頂きながら今日を迎えております。

一方で、Strangerの経営収支は、設立以来厳しい状況が続いておりました。ゴダール特集、ドン・シーゲル特集、カサヴェテス特集など、独自企画の特集を実施した期間については経営貢献できる興収を上げられたものの、映画・カフェ事業全体および通期では黒字化できていませんでした。

とはいえ、これは当初から想定しておりました。映画館・カフェビジネスはいわば習慣化ビジネスでもあり、映画館・カフェに定期的に通って頂く方々を広げていくには地道な根強い活動が必要と認識しておりましたので、お客様にStrangerの存在が浸透するまでに2年程度はかかると覚悟しておりました。よって設立当初から、少なくとも2年間の運転資金は十分に確保し資金調達もしておりました(これは現在でも計画通りで、現時点でも当面の運営資金の心配はありません)。

しかし、現時点で3年目以降、5年先、10年先を考えたとき、このままの状況では、事業継続は困難であることも明白でした。Strangerは私の個人保証の借入で設立された事業で、運営母体となるアート&サイエンス株式会社も現在ではStranger事業にほぼ全ての経営資源を投入しているため、いまやStrangerの収支以上の収益はほとんどございません。企業体力的に、3年目以降、単独でStranger事業を継続させることは難しいのは客観的な事実と認識していました。

本メッセージは私の個人の責任によるメッセージですので、あえて生々しいお話をいたしますが、実は、この時点で、私はStrangerというプロジェクトは2年間で終焉してしまっても仕方がないと腹をくくりました。具体的には、運転資金が底をつく2024年末頃をもって会社倒産および自己破産するしかないと覚悟しました。その代わり、それまでは思いっきりStrangerらしい特集上映、イベント、出版を実施しよう。ミニシアターの歴史に名を残すような企画を思う存分やろう。そのように一度は自分に言い聞かせました。Strangerでは定期的に従業員に経営状況をシェアしていましたので、この現状と決意についても2023年夏頃には全スタッフに周知しておりました。スタッフからは「最後は岡村さんの判断に任せる」「そういう方針もStrangerらしいかもしれない」という声を得ていました。

しかしその後、私の考えが変わりました。映画館という事業は、文化施設として公共性の高い事業である以上、一度始めたからにはできる限り存続できるようにすることが責務の一つであると考えるようになりました。特に、折しも歴史ある地方のミニシアターの閉館のニュースが相次ぎ、ミニシアター業界全体に暗い影を感じる状況でもありました。最も設立の新しいミニシアターとして、それに拍車をかけてはいけないと考えました。またなにより、東京の東エリアであえて映画館を立ち上げると標榜した以上、東エリアでは映画館は難しいという前例やイメージをつくることは避けなければいけないと考えるようになりました。東京の墨田区・江東区エリアでいまこの時代にあえてミニシアターを始めたからには、このエリアでミニシアターが成立するということを証明するために、まずはなんとしてでも映画館という場所を残すことに全力を尽くすべきであると考えるようになりました。

ここで正直に告白すると、私はもともと東京の東エリアに特段の愛着があったわけではありません。20歳で上京して以来、27年間ずっと東京の西エリアを生活拠点にしてきましたし、ミニシアターの思い出ももちろん東京の西エリアとともにありました。墨田区菊川に映画館Strangerをオープンさせたのは、たぶんに法律的な制約、物件との巡り合わせによるところが大きいです。しかし最終的に、せっかく新しいスタイルの映画館をつくろうとしているのだから、エリアもこれまでにない新しい場所で挑戦しよう、と前向きな気持ちで強い意欲を持って立地を決断しました。それ以来、墨田区菊川に大きな愛着を持ってStrangerを運営してきました。何より、「この場所に映画館をつくってくれてありがとう」という温かい言葉に精神的に支えられてきました。また、愛情だけでなく、岸野雄一さんの活動などに触れて、Stranger界隈そして東京の東エリアに大きなポテンシャルも感じ始めました。映画館という文化施設をつくった以上、個人的なプロジェクトとして自己完結して終焉してしまってはやはり良くない。たとえ自分が一定の経済的負担を抱えることになっても、この場所で、映画館が存続するようパートナー探し、譲渡先探しをするべきだと考えるようになり、本格的にサポートしてくれる企業を探すことにしました。

しかしながら、上述のような理由から事業継続の道を探ることに決めた以上、以下のことが必須条件になります。①中期的にStranger事業継続できるだけの企業体力があること、②映画館運営のノウハウと人的資源があること(私が手がける以上の収益を実現できる映画館経営能力)、③地域の文化の担い手となる映画館として地域振興と一体で運営を検討してくれること(東京の東エリアの文化施設としての誇りと責任)。ただしこの3つの条件を満たす相手先を見つけることは容易ではありませんでした。①は事業を継続するために譲渡する以上当然のこととしても、②と③とりわけ②については相手先がかなり限られることになります。実際、①を満たすだけのオファーは少なからずありました。いわゆる異業種からのお声がけで、「映画館運営の経験はないが、広い意味での<劇場>を持ちたい」というニーズがあり、興味関心を持って頂いた相手先です。しかし、②と③を満たさないことには「Strangerとして」継続することにはならないと考え、①だけでは必要十分条件とはせず、諦めずに②と③を満たす相手先を探し続けました。その結果巡り会ったのがナカチカ株式会社です。

ナカチカ株式会社はナカチカピクチャーズという映画事業を有しています。ナカチカピクチャーズ自体は立ち上げから間もないのですが、そこには映画館運営のプロフェッショナルを含む様々な映画業界経験者が集結しています。実際、私がはじめてナカチカピクチャーズの代表である小金澤さんとお話したときに感じたのは、「これぞ映画館運営のプロである」という印象でした。最初に1時間程度お話ししただけで、いかに私たちの映画館運営のノウハウが乏しいものかといことに気付かされました。もちろん、そこには一方でStrangerの独自性もあり、必ずしも悪手ばかり打ってきたと言うことでは決してありませんが、映画館で収益を上げるためには高度で精密な運営ノウハウ、そして人的ネットワークや交渉力、さらに現場の仕組みが必要なのだということにあらためて気付かされたのでした。「小金澤さん率いるチーム(更谷新社長を中心とした)ならStrangerの事業継続性を改善できる」打ち合わせを重ねる度に私はそう確信を強めていきました。そしてさらに③についてもナカチカ株式会社の意識、能力は十分だったのです。小金澤さんは出会ってすぐに「いかに地域に溶け込み、地域と一緒に発展していくか」が重要であると言われました。Strangerの経営課題を見抜いた一言にあらためて胸を突かれたような思いがしました。もちろん、これまでもStrangerとしてできるだけの地域連携はしたいと考えて微力ながら活動してきたつもりですが、事業継続のための優先事項として強く実践するまでには至っていなかったと思います。Strangerは立ち上げから「コアな映画ファン」に支えられてきました。私自身、ともすれば排他的な雰囲気もあるコアな映画ファンたちがオープンマインドにコミュニケーションできるような新しい交流の場をつくりたい。そして、コアな映画ファンの裾野を広げ新しい世代を生み出すような場でありたい。という思いを持っていたこともあり、そこを中心的なターゲットとしてきました。しかし、映画館運営において重要なのは、エッジの立った特集を実施している時以外の、いわゆる通常営業時の平日午前中や昼間の動員状況であったりします。そこにはやはり地元の方たちからの支持がなにより重要になるのです。地元のライトな映画ファンとコアな映画ファンは必ずしもトレードオフではなく、そのバランスを最適化することは可能なはずですが、それに必要なのは、地域性を加味した作品編成とコアな映画ファン向けの作品編成の両輪の調整能力であったりします。そこにまでなかなか力が及ばないことが大きな経営課題だったことは否めません。

ナカチカ株式会社への譲渡後はまた、作品編成だけでなく、文化施設としての映画館の役割を積極的に検討していくと思います。これまでより、東京の東エリアの自治体や地域イベントなどと連携した動きも活発になると思います。ナカチカ株式会社にはそれだけのビジョンとリソースがあると私は信じておりますので、東京東エリアのいちファンとして、今後のStrangerの東京東エリアにおおける役割に期待しとても楽しみにしています。

Strangerはクラウドファンディングによって824人もの方々から約960万円の支援をいただきました。日本での上映権が切れた作品や日本未公開の作品なども積極的に上映するために、一般的な上映より事前に大きな資金が必要になるケースが多くなるのを見越して、作品調達のためご支援をお願いしました。おかげさまで、開業以来、様々なユニークな作品の上映や特集上映を実施することができました。それらはまさに歴史的な上映といっても過言ではないと自負できるものもあり、クラウドファンディングでご支援いただいた皆様の力の大きさをあらためて実感いたしておりました。まだ実体のない計画段階でのクラウドファンディングでしたので、ご支援いただいた皆様の中には、私を信頼し私にご期待いただきご支援をしていただいた方々もいらっしゃると存じます。そんな皆様には、私自身が約1年半で運営の中心から退くことになり大変申し訳ない思いです。これも、いまや私のものだけではなくなっているStrangerという映画館の今後のための、まさに私なりの最善の決断だと受け止めていただきたいと考えています。またクラウドファンディングでご支援いただいた方の約20%は墨田区・江東区の方々でした。千葉方面の方々を加えると約25%にもなります。まさに菊川というこの場所に映画館ができるからこそご支援いただいた方々も多かったのだと想像します。その意味で、あくまで墨田区・江東区エリアにミニシアターを残す。その期待に応える。それを最重要の使命と考えたこともご理解頂ければと存じます。

あらためまして、私自身大好きなStrangerという映画館の誕生にご協力いただきましたこと、この機会に重ねてお礼申し上げます。クラウドファンディングの皆様の存在が、今日まで心の一つの支えとなり、そのおかげで不安で苦しいときも活動が続けられてきました。本当にありがとうございました。ナカチカ株式会社の思いも私のこの気持ちと同じです。クラウドファンディングでご協力いただいた皆様の思いに報いられる運営を目指していきますので、どうぞ第二期Strangerに一層ご期待頂きたいと存じます。なお、クラウドファンディングの特典(2年間フリーパスなど)は今後も継続してご使用頂けますのでご安心ください。

譲渡に際して、現在のスタッフ・従業員は全員そのまま雇用関係が継続します。Strangerはスタッフを最も重要な顧客接点と考えており、それこそコンセプトでした。ですから、Strangerのスタッフは単なる業務遂行員ではなく、Strangerというブランドの大きな資産であり、その可能性の中心です。ナカチカ株式会社にはその点も十分認識して頂き、スタッフこそStrangerの魅力の源泉であることも共有できました。この点においてもナカチカ株式会社のStrangerに対する理解の深さを私が確信した契機の一つであります。スタッフには、これまでの1年半、不安と心配もかけたと思います。先述のように経営状況と方針は適宜シェアしてきましたが、日々現場に立ってお客様に接する立場である以上、様々に複雑な思いを抱えていたと思います。現スタッフは全員、そんな状況でも設立時からずっとStrangerを支えてくれたスタッフです。運営経験もない手探りの状態から始めたこのStrangerというプロジェクトをスタッフ一人ひとりが積極的に担ってくれたおかげで、いまの愛される映画館としてのStrangerがあります。私から感謝の気持ちを言い表すことが難しいくらいありがたい気持ちです。今後、第二期Strangerに体制が変わり、改善すべきところは改善し、維持すべきところは維持しながら、また新たなチャレンジが始まります。お客様・関係者の皆様におかれましてもどうか温かい目でスタッフを見守って頂ければと思います。引き続きStrangerスタッフをよろしくお願いします。

遅れましたが、これまでStrangerにお越し頂いたすべてのお客様にもここであらためてお礼を申し上げます。映画館、カフェ、ともどもとても素晴らしいお客様に恵まれ、毎日生き生きとした活気のある場所に作り上げることができました。Strangerで上映された全ての作品をご覧になっている常連のお客様、お出かけの度にスタッフにお土産を差し入れしてくださった常連のお客様、静岡から毎週のように通ってくださった常連のお客様、クラウドファンディングの時からお父様の思い出とともにメッセージをやりとりさせていただいたお客様、Twitterでいつもコメントをくださるお客様、特集の時には欠かさず全作品をご覧くださったコアな映画ファン、カフェのコーヒーやサンドイッチ、雰囲気を気に入って通ってくださったカフェの常連様、皆様の顔がいま目に浮かびます。Strangerはこれからも存続します。東京の東エリアの唯一のカフェ併設型ミニシアターとしてさらにパワーアップして活動を継続します。どうか、今後とも引き続きご愛顧のほどお願いいたします。

そして、これまでイベントにご登壇頂いた皆様や、Stranger Magazineに執筆いただいた皆様にもお礼申し上げます。皆様のおかげでStrangerは一目置かれる存在になれたと思います。皆様から教えて頂くことや学ばせて頂くことが、私にとってStrangerというプロジェクトのやりがいの一つになっておりました。本当にありがとうございました。

さらに、末尾になりましたが、Strangerの設立に関わってくれた皆さんと、配給会社や仕入先などの取引先・関係者の皆さんにもお礼申し上げます。志はそのままに、より強固な経営基盤のうえにこれまで以上に存在感のある映画館へと変貌を遂げるStrangerにどうぞご期待下さい。変わらぬお付き合いをどうぞよろしくお願いいたします。

追記となりますが、アート&サイエンス株式会社はStranger事業以前にはブランディング・デザイン会社として長く活動して参りました。2011年1月の創業以来、数多くのクライアント企業にサービスを提供し関係性を築いて参りました。その歴史もいったんこの度の株式譲渡で幕を下ろします。これまで、数多くのクリエイティブを手がけて参りましたが、すべてお客様との良好なパートナーシップのたまものと考えております。この場を借りて、13年の活動を支えてくださったクライアント企業、外部パートナー、クリエイターの皆様全員に感謝の気持ちを申し上げます。本当にありがとうございました。本来個別にご挨拶させていただくべきところですが、まずは本メッセージをもって感謝を伝えさせて頂きます。

今後の私の活動については、あらためて折りをみてお伝えできればと思いますが、いま一度ブランディングデザインの領域に復帰して再起をかけたいと思っておりますので、温かく見守って頂きたく存じます。

最後に、いまの私の心境ですが、寂しさ、そして不安ももちろんありながら、ナカチカ株式会社という本当に最良のパートナーと巡り会えたことにひたすら感謝しています。ナカチカ株式会社との出会いなしではStrangerという映画館の未来は悲観せざるをえませんでした。厳しいと言われるミニシアター業界にあって、まだできたて間もないStrangerという映画館の譲渡に応じてくださったナカチカ株式会社代表の中島隆介社長にあらためて敬意を表したいと思います。中島社長をはじめとしたナカチカ株式会社の皆さんが、Strangerのコンセプト、映画館という文化施設の意義、東京東エリアのポテンシャル、これらに深い理解を示してくださったおかげで、Strangerという熱い思いの詰まった映画館が存続することができます。また、中島社長のもと、本譲渡において、中心的な役割を担ってくださった小金澤新会長、更谷新社長にも、その真摯なご対応について敬意を表したいと思います。Strangerのことを本当に親身にご検討いただきありがとうございました。

年末年始の慌ただしい時期に長文乱筆のメッセージとなり恐縮です。私は1月31日の最後まで、できるだけStrangerに立ち続けたいと思っておりますので、あとひと月あまりではありますが何卒よろしくお願いいたします。皆様と新しいこれからのStrangerについて、期待を胸に語り合うことができましたらこれ以上の喜びはありません。

年の瀬の皆様お忙しい時期の発表となりましたこと何卒ご了承のほどお願い申し上げます。この度は最後までお読み頂きありがとうございました。皆様に感謝申し上げます。

▼ナカチカ株式会社の発表
『ナカチカ(株)によるアートアンドサイエンス(株)完全子会社化と映画館「Stranger」の運営移管のお知らせ』
https://www.nakachika.com/news/1sR7qF2V

アート&サイエンス株式会社/Stranger
代表 岡村忠征

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