『英国式庭園殺人事件』(1982)、『コックと泥棒、その妻と愛人』(1989)などの鬼才ピーター・グリーナウェイが、1980年に発表した長編初監督作。グリーナウェイが生み出した造語 “未知の暴力的事象(Violent Unknown Event)”略して“ＶＵＥ”の目撃者たちである、“ＦＡＬＬ”の綴りで名字が始まる92組の人物の経歴を膨大な情報量を詰め込んで描くという、まさしくグリーナウェイにしかなし得ない3時間超の奇想天外なフェイク・ドキュメンタリー。ブリュッセル映画祭で革新的作品に贈られる黄金時代賞や、英国映画協会が設立した独創的で創造性に富んだ映画監督に贈られるサザーランド杯を受賞。音楽は後にグリーナウェイと多数の傑作でコラボレーションすることになるマイケル・ナイマン。追加音楽にブライアン・イーノも名を連ねている。

『ネオン・バイブル』(1995)、『静かなる情熱　エミリ・ディキンスン』(2016)などのイギリスの名匠テレンス・デイヴィスが1988年に発表した長編初監督作。1940～50年代のイギリス、リバプールを舞台にした監督自身の自伝的ファミリー・ドラマで、「遠い声」と2年後に撮られた「静かな暮し」の2部構成。全編に渡って当時イギリスで人気のあったヒット曲や映画音楽など約30曲が散りばめられている。第41回カンヌ国際映画祭国際映画批評家連盟賞を受賞したのをはじめ、第41回ロカルノ国際映画祭グランプリ金豹賞など多くの賞を受賞。日本ではミニシアター・ブーム初期に公開され、長らくDVD化されていないこともありカルト的な人気作となっていた。

＜あらすじ＞
1950年代のリバプール。長女アイリーンの婚礼の朝。その時、父親はすでに壁にかかった写真と家族の記憶のなかにしかなかった。父は厳格をとおりこして暴力的だった。姉のアイリーン、妹のメイジー、弟のトニーの脳裏に刻まれた父の記憶。それらはあまりいい思い出ではなかった。ちょっとしたことで本当にすぐに怒る父だったが、それでも家族は愛していた。父が亡くなった後、子供たちはそれぞれに結婚をし、それぞれに家族をもつ。小さな諍いや不満を抱えながら、それぞれの人生は続いていく…。

英国映画協会が2018年に発表した「史上最高の LGBTQ+ 映画30選」や、米サイト「AfterElton.com」が2008年に発表した「最も偉大なゲイ・ムービー」では第2位に選出されるなど、高い評価を得る青春ラブ・ストーリー。日本では第6回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映され、未公開・未ソフト化であるためカルト的な人気作となっている。今作が長編初監督作となるヘッティ・マクドナルドは、TVシリーズ「ドクター・フー」のエピソード監督を担当し2008年にヒューゴー賞最優秀作品賞を受賞するなどTVを中心に活躍している。ママス&パパス、および「ママキャス」ことキャス・エリオットの楽曲が全編にわたりフィーチャーされ、主人公2人がダンスする名シーンをはじめ、本作に爽やかな感動を与えている。

＜あらずじ＞
イギリスのサウスイースト、ロンドンの夏。集合住宅で母親のサンドラと暮らす高校生のジェイミーは、内気な性格でクラスメイトからいじめられていた。ある日ジェイミーは、アルコール依存症の父と麻薬の売人をしている兄から虐待を受けているスティと仲良くなる。スティがひどく殴られたある晩、見かねたサンドラがスティを家に泊めることに。同じベッドで寝ることになったジェイミーとスティの間に、特別な感情が芽生えはじめる…。

アカデミー賞主演男優賞に輝く名優ゲイリー・オールドマンが、1997年に発表した長編初監督作。オールドマン自身の壮絶な体験をもとにした自伝的ファミリー・ドラマで、脚本と製作も手掛けた渾身の傑作。第50回カンヌ国際映画祭 女優賞、第51回英国アカデミー賞 英国作品賞、オリジナル脚本賞を受賞するなど世界中で絶賛された。『レオン』(1994）、『フィフス・エレメント』(1997）でタッグを組んだリュック・ベッソンがオールドマンからの依頼で脚本も読まずに製作を引き受け、エリック・クラプトンが音楽を担当。タイトルの「ニル」は「ゼロ」を意味し、「ニル・バイ・マウス」とは「何も口にすることの出来ない状態」や「親が子供に温かい言葉を口にしない状態」などを指す。

＜あらずじ＞
イギリスのサウスイースト、ロンドン8区。アルコール依存症のレイモンドは昼から浴びるように酒を飲み、酔って妻ヴァレリーに暴力を振るうこともしばしばだった。ある日、ヴァレリーの弟で麻薬中毒のビリーがレイモンドのドラッグを盗むと、激怒したレイモンドはビリーの鼻に噛みつき家から追い出してしまう。さらに嫉妬深いレイモンドは、ヴァレリーに仲の良い男友達がいることにも腹を立て、彼女を殴る。なんとか新しい生活をはじめようとするヴァレリーだったが…。

ジャミロクワイやレディオヘッド、ブラー、U.N.K.L.E.などのMVを手掛け、90年代音楽シーンを彩った映像クリエイターとして人気を博したジョナサン・グレイザーが、2000年に発表した長編初監督作。今作の後グレイザーは『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(2013)が「カイエ・デュ・シネマ」誌2010年代ベストテンに選出されるなど映画界で独自の地位を築いている。主演は『ニル・バイ・マウス』(1997)の名優レイ・ウィンストン。英インディペンデント映画賞で作品賞、監督賞、脚本賞、男優賞（ベン・キングズレー）を受賞。ベン・キングズレーはアカデミー賞やゴールデングローブ賞の助演男優賞にもノミネートされ、その鬼気迫る怪演が絶賛された。

＜あらすじ＞
イギリスの元ギャングのガルは、引退してスペインの地中海を臨む別荘で妻や友人夫婦と悠々自適に暮らしていた。ある日、ガルのもとに昔の仲間でありその残忍さで皆から恐れられているドンがやってくる。ロンドンで銀行強盗に参加して欲しいという“仕事”の依頼だった。断るガルだったが、ドンは執拗に迫り、楽園のようだった別荘は一転して危険な香りが立ち込める…。