最新の劇場公開作品の短評を点数式でレビュー。Strangerのスタッフが作品の感想をスピーディにお届けします。作品鑑賞のガイドとしてご活用ください。
製作年:2021年
監督:セリーヌ・シアマ
セリーヌ・シアマの作品の登場人物たちは、しばしば不意に画面の外を眺める。前触れなく顔を横に向けたり、耳を澄ますように顔を上げたり。そこで大抵カットが変わり、繫がっているのかいないのか判然としない次のカットが始まる。ただそれそのものとしてある画面外への視線。宙づりにされた虚空を見つめたままの登場人物たちのイメージ。シアマ的な登場人物たちとは、一切の時間を止めて虚空を見つめたまましばしもの思いにふける人々のことだ。
視線の先にある虚空すなわち「空っぽ」さはこの作品においても顕著だ。患者を失った空っぽの病室、ほとんど生活感のない空っぽの家、少女たちのつくる空っぽの小屋、ボールを失った空っぽの遊び道具、湖に浮かぶ空っぽの建造物、そして生き物のいない枯れた空っぽの森。シアマはそれを満たそうとしない。満たすべきものを外部から調達してくるのを頑なに拒むように見える。異物は拒否するのだ。
人間は何かを探す生き物である。自分を不完全だと感じている存在だ。欠けた何かを探し求める宿命を負っている。シアマの登場人物たちは、それを他者や差異に求めるのではなく自己や同一性に求める。あるいは空っぽのままにしてただ見つめている。自己に欠けた何かや失われた何かを、外部ではなく自己や同一性のうちに見つけ出す。そんなことができるわけがない、はずだが、シアマの作品は時としてそれを可能にする。シアマの作品にファンタジーを感じるとしたら、それはきっとそのせいに違いない。
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