Strangerスタッフによる2023年映画ベスト&お客様アンケート「2023年の映画ベスト」結果発表

By stranger.theater
2024.01.16

昨年に続き、Strangerで勤務するスタッフたちの2023年のベストテンを掲載します。作品の製作年や鑑賞方法などは問わず、自由形式のベストとして各自が「2023年に鑑賞して心に残った作品」を挙げています。昨年公開された話題作や、当館での上映作品だけでなく、各々が出会った忘れられない作品が並びました。
選んだ作品には各自がコメントを寄せています。劇場スタッフという一個人のベストではありますが、2023年の映画をめぐる振り返りのひとつとして、ぜひご覧いただければ幸いです。
また、今回はご来場のお客さまにも、2023年に映画館で出会ったベスト映画をアンケート形式で教えていただきました。こちらの集計結果もあわせてご紹介いたします。

2022年のスタッフベストテンはこちら


岡村忠征(Stranger代表)

「新作として劇場で観たものベストセレクション」とした。気に入った作品だったのに選外になってしまった次点作品は『アステロイド・シティ』『春画先生』『栗の森のものがたり』など。
最も強烈に印象に残ったのは古澤健監督『STALKERS』。1/26金から6日間限定でStrangerで上映が決定しています。一人でも多くのお客様に観てほしいような、なんだかあくまで個人的体験としてそっと仕舞っておきたいような、そんな作品。でもやっぱり観て欲しい。ご来館をお待ちしております!

①『ベネデッタ』(2021年/ポール・ヴァーホーベン)
②『STALKERS』(2023年/古澤健)
③『独裁者たちのとき』(2022年/アレクサンドル・ソクーロフ)
④『枯れ葉』(2023年/アキ・カウリスマキ)
⑤『EO イーオー』(2022年/イエジー・スコリモフスキ)
⑥『首』(2023年/北野武)
⑦『アラビアンナイト 三千年の願い』(2022年/ジョージ・ミラー)
⑧『ファースト・カウ』(2019年/ケリー・ライカート)
⑨『ショーイング・アップ』(2023年/ケリー・ライカート)
⑩『きのう生まれたわけじゃない』(2023年/福間健二)

 

①『ベネデッタ』(2021年/ポール・ヴァーホーベン)
狂気へ注がれる愛の眼差し。それはいつも、とても映画的な眼差しだと思う。真の狂人はすることがない。だから真の狂人は描くことができない。ヴァーホーベンはベネデッタを畏敬の念とともに描き切った。ゆえにベネデッタの熱情は実は狂気ではない。それは崇高な忠誠心である。至上命令に従う人間の過酷ながら美しい姿。その一見狂気と見まがうものへと注がれる慈愛に満ちた眼差しに心を打たれた。

②『STALKERS』(2023年/古澤健)
2023年の衝撃度ベストワン。新作として劇場で観たものに限るベストセレクションのつもりだったが、本作を入れずに2023年のベストは語れないのでこれは例外として選出した。
映画探求の最前線でありつつ、映画の原始的な神秘に触れている。人間は、どんな活動であろうと、細分化していけばほとんど意味不明な行動をしているに過ぎないという点で、労働と疎外の宿命を扱った映画だと思ったし、映画を作るという労働を描いた映画と言うこともできると思った。しかし真の凄味はこの映画がとにかくサスペンスフルであるということ。トンネルの向こうから逆光を背にして見知らぬ人間が歩いてくるときの恍惚と不安。何が起こっているのか全く分からないが、ただ目撃者として手に汗握って見守るほかない、というまさにアクションやホラーの原点に触れるような体験だった。

③『独裁者たちのとき』(2022年/アレクサンドル・ソクーロフ)
アーカイブ映像を素材として使用しつくられた映画でありながら、すべてのショットが確信に満ちている。映画が「編集」の芸術だということをまざまざと見せつけられた。沸き立つ大群衆のシーンでは、ただ人が大勢いるということに、そしてそれを映し出してみせる映画というものに恐れと喜びを感じた。歓喜をもって畏怖すべき映画だと思う。2023年最も衝撃を受けた作品の一つ。

④『枯れ葉』(2023年/アキ・カウリスマキ)
かなり純度の高いカウリスマキ映画。カウリスマキを原液で味わうような体験。愛すべき人々の取るに足らない物語。それがどうしてこんなにも心を動かすのか、映画の謎なのかカウリスマキの謎なのか、謎は深まるばかり。

⑤『EO イーオー』(2022年/イエジー・スコリモフスキ)
ポーランドからイタリアへと至るロードムービー。物言わぬ生き物EO。EOは存在であり、眼差しである。これほど卑近な世界を描きながら極めて精神性の高いロードムービーを忘れることができるはずがない。音楽も映像も素晴らしい。

⑥『首』(2023年/北野武)
俳優たちを演出する、という手腕において、いま北野武の右に出るものがいるだろうか。すべてのシーンが俳優にとって見せ場であり、闘いの場であるような、緊張感に満ちたアンサンブルをその場で直に目撃した気がした。

⑦『アラビアンナイト 三千年の願い』(2022年/ジョージ・ミラー)
誇大妄想を描かせるならジョージ・ミラーだ。たとえばテリー・ギリアムが誇大妄想的世界を現実に繋ぎ止めるのにしばしばセンチメンタルな情に訴えるのに対して、ジョージ・ミラーはいつも神話的な不条理を描いてあえて現実と繋ぎ止めてみせる。その手腕は一級の名に値すると思う。

⑧『ファースト・カウ』(2019年/ケリー・ライカート)
はじまってすぐになぜだか主人公の男が好きになる。登場人物に思わず好意を抱かせるライカートの手腕は驚くべきものだ。途切れなく続く小さなサスペンス。その間ずっと、この男のせめてもの幸せを願わずにいられない。力のある画面に目を奪われて、終わってみれば寂寞とした感動が胸の中に湧き起こる。ラストシーンへと至る周到な展開がすべてを支えたと思う。

⑨『ショーイング・アップ』(2023年/ケリー・ライカート)
生きることのほとんどを「面倒なこと」で埋め尽くされている私たちは同時にその「面倒なこと」に生きる実感を感じて愛撫してもいる。動物よりややこしく愚かで憎むべき、しかし愛らしい生き物としての人間を見つめるライカートの眼差しに、とうとう最後は共感を感じずにはいられない。途中停滞を感じたりもするのだが、終わってみればその停滞すら豊かに感じ、やはり寂寞とした感動が胸の中に刻まれていた。

⑩『きのう生まれたわけじゃない』(2023年/福間健二)
詩人のつくった映画ということで、映画的な体験以外の何かを体験させられることに不安と期待を抱いていたが杞憂だった。これほど映画的なマジックと巧みに戯れた映画もあるまい。映画のマジックであり、マジックの映画である。すっかり魔法にかけられてしまった。

 


林ウンソル

『そして僕は途方に暮れる』(2022年/三浦大輔)
『ショーイング・アップ』(2023年/ケリー・ライカート)
『コンパートメントNo.6』(2021年/ユホ・クオスマネン)
『帰れない山』(2022年/フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン、シャルロッテ・ファンデルメールシュ)
『658km、陽子の旅』(2022年/熊切和嘉)
『ファルコン・レイク』(2022年/シャルロット・ル・ボン)
『恋脳Experiment』(2023年/岡田詩歌)
『別れる決心』(2022年/パク・チャヌク)
『正欲』(2023年/岸善幸)
『劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ』(2023年/大谷健太郎)

 

2023年は特に落ち着きあるロードムービーが心に沁みました。長い旅をしている私は今どこに向かっているんでしょうか。この長い旅の目的地は果たしてどこでしょうか。時間が経ってからこそ分かることもありますよね。

『そして僕は途方に暮れる』(2022年/三浦大輔)
1年間変わらずベスト1位。誰もが持っている「すべてを捨てて逃げ出したい」気持ち。でも、逃亡には多大な勇気が必要だ。この逃亡の果てで笑うか、泣くか。最後の顔、表情は一生忘れられない。

『ショーイング・アップ』(2023年/ケリー・ライカート)
なぜ自分だけにこんなことが起こるのかと思うほど、すべてが上手くいかない時がある。なぜいつも一つを解決すると、また他の問題に直面することになるんだろうか。自分のことだけに集中したい時も家族、友達、仕事…周辺の雑音が永遠に終わらなさそう。それでもすべてはいつかは終わり、苦しめられたことは何でもないことになる。すべてが上手くいかなくても、いつも通りにすれば良い。諦めずにやれば、ちょっとしたことでも必ず変化は訪れる。

『コンパートメントNo.6』(2021年/ユホ・クオスマネン)
ずっと見たかった景色が見られた時、欲しかったものをやっと手に入れた時、感じられる空しさと寂しさを知っていますか。目の前の今より、そこに至るまでの旅程がもっと大切で切なくなる。

『帰れない山』(2022年/フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン、シャルロッテ・ファンデルメールシュ)
世界の中心には最も高い、須弥山があり、その周りを海、そして8つの山に囲まれている。8つの山すべてに登った人と、須弥山に登った人、どちらがより多くのことを学んだのか。ある人生には戻れない山も存在するけど、結局自分が選択した山を正解にするのは自分自身だ。人生という山の話。

『658km、陽子の旅』(2022年/熊切和嘉)
20年断絶していた父の訃報を聞いて故郷の青森に帰る陽子の旅を描いた作品。後半のロングテイクの陽子の独白シーンは胸が痛かった。小さい頃、やりたかったことがあったけど、思った通りにいかない、何かを成し遂げたいと思った陽子の過去の日々。陽子はもう家から出た時の父と同じ年になった。陽子が憶えている父は20年前の顔。私も寝る前たまに、長い間会えなかった父親の顔を思い浮かべてみるけど、思い出せない時があるので、共感の涙が出た。

『ファルコン・レイク』(2022年/シャルロット・ル・ボン)
シャルロット・ル・ボン監督の長編デビュー作。一ヶ所だけを見つめる時、関心を引きたくて周りをチョロチョロとうろつく時、訳の分からない愚痴をこぼしたい時、ときめきで眠れない時、降り注ぐ気持ちをコントロールできない時、触りたくて、触れたくて死にたい時、このすべてが説明できる言葉、ただ一つ。

『恋脳Experiment』(2023年/岡田詩歌)
2023年のPFFの発見はこの作品!「恋をすると可愛くなれる。」という呪いのような言葉に翻弄される女性を描いた本作は短編アニメーションやMV・CMで活躍している岡田監督の長編実写デビュー作である。 後半、実写がアニメになるシーンがあるが、監督のこれまでの道のりを感じて涙がにじんだ。主演のキララちゃんの代表作になると確信してる。

『別れる決心』(2022年/パク・チャヌク)
告白をする時も決心が必要なように別れにも決心が必要だ。パク·チャヌク監督しか作れないどこか全部ズレているこのロマンスが好き。「私も完全に崩壊しました。」

『正欲』(2023年/岸善幸)
自分の感情は自分のもので、あってはならない感情などこの世にはない。 社会が定めた「普通」に該当しなくても、自分を理解してくれる人はきっといる。あなたがどんな人であっても、この映画が味方になってくれる。 

『劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ』(2023年/大谷健太郎)
漫画、アニメ、実写のドラマも全部観たし、劇場版は応援上映会まで入れて4回も観た。 誰かを全力で応援すること、応援できる推しがいる世界はなんでこんなに美しいんだろうか。ヲタクはきっとこの気持ちをわかってくれると思う。

 


カンサイラ

昨年日本で上映された中華圏の作品メインで選びました!2023年はリバイバルも新作も香港映画がたくさん上映されてとっても楽しい一年でした!ベストには入れていないけど思い出深いのはTIFFでの『烈火青春』。超満員のヒューリックホールで全員があのカオスを目にしていたと思うと今でも可笑しくて笑っちゃうくらい強烈な映画体験になりました。ちなみにトニー・レオンが登壇した『2046』のチケットは端末3台で臨みましたが惜しくも取れず(涙)。去年は少し背伸びをしすぎたので、今回は22歳等身大の言葉選びを心掛けました!順不同!

『ロアン・リンユィ/阮玲玉』(1991年/スタンリー・クワン)
ル・シネマのリニューアルオープンに際し行われたマギー・チャン特集にて!ニュアンスになってしまいますが、本編中監督や演者たちによるディスカッション部分でマギー・チャンは「他人のせいで自殺なんて絶対にしないわ」と力強く発言していたのに、本筋のドラマ部分に戻ると世間からの冷たい言葉に心を病み憔悴しきったロアン・リンユィそのものとして存在する姿に、彼女の俳優魂を垣間見ました。マギー・チャン、なんとなく薄幸にみえる役柄が多い印象だけど、本人の持つ強かさが私は大好きです。

『理大囲城』(2020年/香港ドキュメンタリー映画工作者)
怒りや無力感に苛まれるばかりだったけど、知ることができて、見ることができて良かった。香港映画のファンとして、香港という地のファンとして、いつも彼らのことをおもっています。

『小さき麦の花』(2022年/リー・ルイジュン)
自分の手で育てた作物を命がけで守る姿を見て、”食べる”という行為を消費してはいけないなと思いました。静かだけど、とてつもないパワーを秘めた作品。

『私のプリンス・エドワード』(2019年/ノリス・ウォン)
2023年上半期ぼんやりと考え続けていた【結婚】という事象に対するひとつの答えだった。答えを見つけられた喜びはあったけれど、その答え自体喜ばしいものではなかった。それはそうと私の中で廣東話と普通話が飛び交う映画は無条件にベスト入り!

『さらば、我が愛 覇王別姫』(1993年/チェン・カイコー)
あまりの美しさに圧倒され続けた172分。

『愛にイナズマ』(2023年/石井裕也)
松岡茉優さんの「一生懸命生きてるあなたに観てほしい」という番宣での一言で鑑賞。しぬほど笑ってしぬほど泣いた。やっぱり私は自分なりに一生懸命であり続けたいと思ったし、それを肯定してくれるものに出会えた気がする。大切に心にしまっておきたい作品。

『PERFECT DAYS』(2023年/ヴィム・ヴェンダース)
こんなに美しく愛おしい映画があってたまるかと思った。ママの「どうして、いまのままじゃいられないのかな」という言葉が、今も頭にこびりついて離れないでいる。

『大英雄』(1993年/ジェフ・ラウ)
今年出会ったオールタイムベスト!
『楽園の瑕』(1994年/ウォン・カーウァイ)の撮影に行き詰まりすぎて急遽間に合わせで作った作品。
あの輝かしい香港スター達が本気でバカやってる。トニー・レオンの唇が腸詰めになってたりレスリー・チャンが流し目拳法とか炸裂させているのに、終盤出演者がようやく揃ったところでもう二度と見ることが出来ない面々が並んでる事に感極まり涙。とにかく大好き。ずーっと大好き。書いていたら居ても立ってもいられなくなってDVD買っちゃった。ああ……。

『雄獅少年/ライオン少年』(2021年/ソン・ハイボン)
アチィ〜〜!現実の突きつけ方とエンタメとして綺麗事でもいいから観たい展開の塩梅が絶妙だった!あとエンドロールで流れる「無名的人」の歌詞が良すぎて泣いた。

『シークレット・サンシャイン』(2007年/イ・チャンドン)
信仰とは。映像体験としては同監督の『バーニング』(2018年)が強く心に残っていますが、この映画が存在していること自体が私にとって救いのような気がしました。

『珍しい花の歌』(1959年/オタール・イオセリアーニ)
2023年の初めはイオセリアーニ映画祭に奔走する日々を過ごしたのですが、中でも特に印象に残っている作品です。ここまで映画を見ながら流れる時間を美しいと感じたのは初めてでした。

『ヴァチカンのエクソシスト』(2023年/ジュリアス・エイヴァリー)
最高〜〜!!!!観に行った次の日から「ヴァチカンのエクソシスト観ました!?」芸人と化してしまうくらいには最高。

『グランツーリスモ』(2023年/ニール・ブロムカンプ)
22年間生きてきて初めて父と映画館に行きました。場内灯が点いた瞬間、父が満足そうな笑顔で「面白かったね!」と言ってくれたのを聞いて、今回のベスト入りを決めました。

『招かれざる客』(1967年/スタンリー・クレイマー)
正直ピンとは来ませんでした。でもおばあちゃんが勧めてくれたさいごの映画だから、そのことをここに残します。いつまで経ってもジョニー・デップをジョニージープって言い続けるおばあちゃん。シルベスターローンになっちゃうおばあちゃん。ずっとずっと大好きなおばあちゃん。

2024年は1月末にジョニー・トー監督の特集上映があったりトニー・レオンの新作があったりと、今年も楽しみが沢山な予感!個人的には『あの頃、君を追いかけた』のギデンズ・コー監督の『赤い糸 輪廻のひみつ』もまだ観れてないのですが楽しみです!

 


鈴木里実

Stranger開業一周年を迎えた2023年、今回はStrangerでの上映作品から5本と、また、新作よりも足を運んでいる名画座での鑑賞作品から心に響いた映画を選ばせていただきました。


開業一周年を記念して、ラディッシュレッドのロゴを刺繍しました。

 

★2023年Strangerで上映した映画でより心に残った作品(2023年初見、上映順)
・『殺人捜査線』(1958年/ドン・シーゲル)
・『群山』(2018年/チャン・リュル)
・『書かれた顔』(1995年/ダニエル・シュミット)
・『カード・カウンター』(2021年/ポール・シュレイダー)
・『バーナデット ママは行方不明』(2019年/リチャード・リンクレイター)

1月〜3月頭にかけて特集したドン・シーゲル。考えるよりも先にアクションが起きて息つぎも大変な展開、スケートリンクへの落下と人物配置、工事中の高速道路での急停車など大興奮した『殺人捜査線』は、こんなに面白いドンがまだまだあったのか!!!とひどく感動しました。続いて3月末から4月のチャン・リュル特集。今特集で初めてチャン・リュル作品に出会いました。自分には全くピタッとこない作品もあるにはありましたが、ピタッとはまると隅々まで染み込む!それが『群山』でした。酔っ払ってぐだぐだなムン・ソリが素晴らしいです。偶然にも坂東玉三郎の誕生日を挟みつつ上映した『書かれた顔』、玉様とはお誕生日が同じなので、このタイミングでしかもダニエル・シュミット監督の玉様を上映できるとは運命!と思った次第ですが、そんなことは本当にどうでも良くなる舞台の表と裏の玉様、杉村春子大先生(しかも成瀬『晩菊』からの杉村春子だったので号泣を禁じ得ません)、武原はん先生などなど目に映る人物たちの存在も動きも眩しすぎて、衣擦れの音まで大変な栄養でした。『タクシードライバー』はスコセッシよりもポール・シュレイダーの映画だと思っていますが、そのスコセッシとシュレイダーが制作総指揮×監督・脚本で組んだ8月の『カード・カウンター』。ラストに至るまでに積み上げられるオスカー・アイザックのゲーム&心模様は言わずもがな、おしゃれでもなんでもないイルミネーションでのぎこちないデートを映した少し歪なカメラに心を鷲掴みにされました。ガラス越しのE.T.も。Stranger一周年の9月に開催したジョン・カサヴェテス特集では、これまで上映機会の少なかったカサヴェテス作品を上映できて&スクリーンで見られて感無量、『ミニー&モスコウィッツ』なんて何度でもベストに入れたい映画ですが自分で初見縛りにしてしまったので諦めます。2019年作品なのに2023年にもなってひっそり公開された11月の『バーナデット ママは行方不明』。みなさま!もっと!!見てください!!!と声を大にしていましたが届いたでしょうか?自分自身を喪失していた一人の女性が自分を取り戻すまでの物語、と言ってしまえばどこにでもありそうな映画に聞こえますが、細部まで行き届いた作りにキャラクター造形でバーナデットも夫も娘もお隣さんもみんなそこに生きていました。2024年、私もバーナデットエキスを注入して好きなものに突っ走っていきたいと思います。

★2023年に名画座で鑑賞して大好きだった作品(2023年初見、鑑賞順)
・『情炎お七恋唄』(1972年/小原宏裕)ラピュタ阿佐ヶ谷「絢爛ロマンポルノ時代劇 艶情夜話」より
・『いれずみ半太郎』(1963年/マキノ雅弘)ラピュタ阿佐ヶ谷「娯楽映画職人の矜恃 脚本家・野上龍雄 遅すぎた再発見」より
・『119』(1994年/竹中直人)神保町シアター「にっぽんのアツい男たち3――男が惚れる男たち」より
・『極道のおんなたち 赫い絆』(1995年/関本郁夫)ラピュタ阿佐ヶ谷「関本郁夫 映画人生タイマン勝負!」より
・『瀬戸はよいとこ 花嫁観光船』(1976年/瀬川昌治)シネマヴェーラ渋谷「飛んだり駆けたり停まったり 人生は乗り物だ!」より
・『純白の夜』(1951年/大庭秀雄)衛星劇場:特別枠

小川節子さんの出演作ってどうして面白いものが少ないのか、と侮っていた私が馬鹿でした。ほぼ小川節子特集と言っても過言ではない「絢爛ロマンポルノ時代劇 艶情夜話」で、私が単に見ていなかっただけだと思い知らされました。『情炎お七恋唄』小川節子万歳! 櫓に登らない代わりに屋根瓦で火に包まれ、半鐘を打たない代わりにその後が描かれる本作、ラストまで最高です。未見のマキノがあれば駆け付けなければいけないので『いれずみ半太郎』。なぜ!私は!今までこれを見ていなかったのか!ヤクザ相手に女郎が啖呵を切る序盤から涙が止まらず、マキノお得意の同一カット繰り返しすぎ問題もここに極まれり、いつも以上に執拗に、更に刻みながら、しかもそれがあの場面で、というところと悲痛なラストで決壊しました。涙止まれスクリーンが見えないよ(そのすぐ後に国立映画アーカイブで見た『わが映画人生 マキノ雅裕監督』(「逝ける映画人を偲んで 2021-2022」より)がまたとんでもなかったです)! とにかく須賀不二男が素晴らしい『119』では、竹中直人の監督作ねぇ、と斜に構えてしまいごめんなさい。須賀不二男をあんなに良く見せてくれて久我美子も伊佐山ひろ子もみんないるし全世代勢揃いで、結果的に竹中直人監督にはありがとう!と心の中で手を合わせました。消防隊のお話なのに火事が起きないのも良いです。極妻と言えば岩下志麻ですが、そのお志麻さまが下界に降りてスーパー勤務&アパート暮らしをする『極道のおんなたち 赫い絆』。下界のお志麻さまは一際輝いていて、極妻ではじめて涙が溢れました。同じ上映回に関本監督ご本人がいらしていて、なぜだかそのまま二人で飲みに行った(初対面)のも2023年の一大トピックです。『瀬戸はよいとこ 花嫁観光船』は、今となっては何の話だったのか全く説明できないし、したらこの映画の面白さが半減してしまいそうですが、息つく暇もない三組の男女の展開がとにかく面白く泣き笑い、久しぶりにこのまま映画館の椅子と一体になりたいと思えた映画です。そして特別枠の『純白の夜』、本作は名画座ではなく自宅の小さなテレビで見たので入れるかどうか迷いましたが……、木暮実千代と河津さんとモリマと信欣三との熟れすぎたノーリミット中年恋愛模様にノックアウトされてしまい入れずにはいられませんでした。木暮実千代と同じようなところにほくろがあることを誇りに思います。

 


瀧ヶ崎志帆

2023 BEST CINEMA by takistar☆

昨年はこれまでの人生の中でも
1番映画を観た1年であり、
様々なジャンルの作品に出会えた年でした。
その大半は自分1人では辿り着かなかった作品です。

鑑賞に辿り着くまでの裏側にある、
映画を買い付けること、
映画館で何を上映するか選択し、
観客まで届けること。
日々一緒に働くStrangerの仲間たちをはじめ、
各所で尽力して下さっている、映画に関わる方々に改めて尊敬と感謝の想いです。

私の人生の1本『アメリ』も
昨年22年ぶりに劇場上映されました。
本作が大好きな人にも、
まだ観たことがない人にも、
再び劇場で目に触れる機会が訪れた事は
1ファンとして嬉しく、いつもDVDで観ていた作品をスクリーンで鑑賞出来たことはとても感慨深い出来事でした。

末期ガンで余命宣告を受けたことを昨年公表された映画プロデューサーの叶井俊太郎さんが、ホラー映画と勘違いして買い付けたというエピソードが有名ですが、本意とは違えど鑑賞するきっかけをつくって下さった叶井さんには個人的に感謝の想いが溢れます。
そんな想いを抱くまでに至れたのも、2023年、Strangerという場所で映画に触れる機会を持てたからこそです。

何年かぶりに再鑑賞して大号泣した『ローマの休日』はじめ、新作映画のみならず旧作のリバイバル上映によって改めてその名作と言われる所以を再確認したり、全く知らなかった名作が多々あることに気付かされました。
まだ観ぬ素晴らしい名作、隠れた作品が今年も多くの方のもとに届き、その人の人生の中でのヒントや背中を押すきっかけになる機会が今後も増えていくと良いなぁ…と思います。

2024年も映画で溢れる1年に。
私も映画の素晴らしさを自分なりの力で伝えられる方法を今後も模索し続けていきたいです。

★ ★ ★ ★ ★

1位 『ジュリア(s)』(2022年/オリバー・トレイナー)
「あのとき、こうしてたら…。あっちを選んでいれば…きっと違う今があったのに…。」
そんな過ぎ去りし時間への後悔の念を一気に吹き飛ばし、どんな選択も自分自身なんだと受け止め、「今」を大事にこれからをしっかり生きよう!と決意が湧いた作品。
人生のあらゆるタイミングの訪れの描き方も秀逸で新しい感動を覚えました!
劇場上映期間が比較的短く、ご鑑賞いただける機会が少なかったのですが、配信レンタルがスタートした模様!
“たられば”の念に駆られている方!
是非観ていただきたい!

2位 『幸福な結婚記念日』(1961年/ピエール・エテックス、ジャン=クロード・カリエール)
正直ピエール・エテックス特集の作品自体が全てベスト入りですが(笑)初めて観たこの13分間の作品で、「これは途轍もない天才だ…!」と心掴まれました。
結婚記念日のお祝いで家に待つパートナーのもとに帰るまでのストーリー。道すがら遭遇するパリの渋滞は特に笑いポイント。
イライラせずに、住みにくさを寧ろ楽しむパリの人々の心の余裕に感心すらも覚えます!(笑)『健康でさえあれば』(1965)、長編初カラーの『大恋愛』(1968)も面白い!
50年以上も前の作品とは思えない素晴らしいセンスとユーモアに脱帽です。

3位 『PERFECT DAYS』(2023年/ヴィム・ヴェンダース)
永遠だと思ってたものに限りがあると実感することが増え、年を重ねる毎に時間のもたらす変化について考えることが多くなりました。変わらなくてもそれはそれで焦るし、変わることで苦しくもなる。そんな今の気持ちにすっと、じんわりと染み込んだ作品です。
どう捉えるか、どう感じるかは全て自分次第なんだ。木漏れ日のような一瞬一瞬を大事に。同じように見えて同じじゃない。役所浩二役所広司さん演じる平井さんのようにまずは1日1日を丁寧に生きたいと思いました。毎日日記をつけはじめるきっかけにもなった作品です!

4位『正しい日 間違えた日』(2015年/ホン・サンス)
言葉の重要さを痛感した作品。
相手の感じている気持ちや痛み、考えている頭の中はどうやってもその本人が感じるままには分かることはできないのと同じで、それは自分自身を相手に伝える時も同じ。でもそれを少しでも共有する手段に、言葉がある。次に出会う相手には偽らずに素直に伝えてみたい、と思いました。
2つのストーリーで見せる作品の構成も素晴らしかったです。
そして、とにかくホン・サンスの作品は誰かとお酒を交わしながら語り合いたくなる!笑

5位『燃える平原児』(1960年/ドン・シーゲル)
先住民と白人の混血であるが故の葛藤を抱えるペイサーをエルヴィス・プレスリーが演じています。ペイサーの苦悩が今もなお根強く残る人種差別の現実と重なり、苦しく、同時にこの作品の重要性を感じました。
歌手ではなく俳優としてのエルヴィス・プレスリーも必見です。素晴らしかった!

6位『リバー、流れないでよ』(2023年/山口淳太)
たった2分間のタイムループで、どうやって話が進むの?!と思ったら、素晴らしく面白くもあり、じんわりもする。進まない時間から前に進む力をくれる作品です。 もっと話題になっても良いのでは?!と思うくらい天才的で、傑作だと思います!!!前作の『ドロステのはてで僕ら』(2020)も面白いので是非。こちらも2分のタイムループです。

7位『とても素敵なこと-初恋のフェアリーテール-』(1996年/へッティ・マクドナルド)
『燃える平原児』を観た時に似た感情を覚えました。自らとは異なる他者の気持ちにどれだけ想像力を持てるか。昔も今も変わらぬ、苦しくも人間の永遠のテーマなのかな…と思います。
この作品はジェイミーとスティ2人の少年のお互いの中に芽生えた特別な感情から、主人公たち本人や家族、周りの人々の抱き始める感情の揺れ動きにフォーカスされていて、胸にじわっと沁み込んできました。もっと多くの方に観ていただける機会があったら…と思うラブ・ストーリー作品です。
又、主人公ジェレミーの可愛すぎる部屋のインテリアや登場人物たちの90年代を感じるファッションもキュート!似たアイテムを求めて古着屋にいる自分がいました(笑)

8位 『BLUE GIANT』(2023年/立川譲)
原作の漫画は読まぬまま鑑賞しました。
何も知らないからこそストーリーの展開にも一喜一憂し、そして目標に向かい努力し、立ち向かっていく3人のかっこよさに衝撃を受けました。
何か一つのことを極めて進む人に、自分自身も憧れてるからこそ、主人公の大の全くブレずに夢へと向かう姿が突き刺さりました!そしてあれほどまでに貫ける好きなものを持っている大が羨ましくも思えました。
「あんたも負けてられんぞ!」と喝を入れられたような作品です。

9位『FALL/フォール』(2022年/スコット・マン)
映画を観ていて、こんなに手汗をかいたことは今までありません…!!!こんなに臨場感ある恐怖を体感した作品は初めてです!
映像だけで、こんなに手汗が出るならば実際なら……?と自分を作中に置き換えることで、更に手汗と足がすくむときのあの感覚が手のひらと指先に起こり、更に恐怖!
何故彼女たちがあんな高所にいるかの経緯は置いといて、とにかくあんなリアリティある体験ができる作品、なかなか無いのでは?と感じました。

10位『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』(2022年/ダニー・フィリッポウ、マイケル・フィリッポウ)
年内ラストシネマが駆け込みランクイン!
ホラー映画は好きでよく観る方ではありますが正直あまり怖くなかったり、惜しいなあ…と思うことが多いです…。が!この作品は最後までちゃんと怖かった! ラストの終わり方もゾッとします…。ただ怯えるだけではない、死後の世界への想像力を掻き立てると共に、命を遊び道具にすることへの警告でもあると感じた作品。

 


増田陽和

1.『ザ・キラー』(2023年/デヴィッド・フィンチャー)
シニカルで悪趣味なユーモアに終始ニヤニヤ。ラストは思わぬ実存的な問いにしてやられました。

2.『帰れない山』(2022年/フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン、シャルロッテ・ファンデルメールシュ)
美しく、優しさと痛みに満ちた素晴らしい作品でした。大好きだったはずの故郷がいつしか自分を苦しめる場所になってしまう悲しみが痛いほどわかります。

3.『おひとりさま族』(2021年/ホン・ソンウン)
他人とは一定の距離感を保ち、できる限りひとりで安らぎを得ようとする。食事や生活は単調で、暇な時間は動画を見て時間を潰す。孤独に寄り添うような、とても親近感を覚えた作品でした。

4.『別れる決心』(2022年/パク・チャヌク)
コミカルな編集は愉快で、二人が交わす言葉や視線は哀しく官能的で、最後には打ちのめされました。

5.『Saltburn』(2023年/エメラルド・フェネル)
醜くも美しい羨望。毒されていく快感がクセになります。

6.『イニシェリン島の精霊』(2022年/マーティン・マクドナー)
悲しく、陰鬱で、馬鹿馬鹿しく、暴力的で、美しい。マーティン・マクドナーらしい奇想天外で魅力的な作品でした。

7.『誰も助けてくれない』(2023年/ブライアン・ダッフィールド)
深い没入感と張り詰めた緊張感を堪能した最高の映画体験でした!

8.『アシスタント』(2019年/キティ・グリーン)
静かでありながら、強く確かな怒りを感じました。洗練された演出や構図は彼女の徒労感や恐怖を正確に捉えており、素晴らしかったです。

9.『長ぐつをはいたネコと9つの命』(2022年/ジョエル・クロフォード)
カラフルで豪華なビジュアル、魅力的なキャラクターとストーリー。楽しさに満ち溢れた素晴らしいアニメーションでした!

10.『ボトムス ~最底で最強?な私たち~』(2023年/エマ・セリグマン)
ギャグやジョークの怒涛のラッシュ。下品で、くだらなく、爽快。最低で最強。こんなに笑った映画は初めてです!

 


八坂百恵

2023年に劇場で鑑賞した作品のなかで特によかったものを、ランキングなしで10作品選びました。

『アポロニア、アポロニア』(2022年/レア・グロブ)
『バーナデット ママは行方不明』(2019年/リチャード・リンクレイター)
『とても素敵なこと-初恋のフェアリーテール-』(1996年/ヘッティ・マクドナルド)
『ヴァチカンのエクソシスト』(2023年/ジュリアス・エイヴァリー)
『劇場版 ほんとにあった!呪いのビデオ100』(2023年/中村義洋)
『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』(2022年/ダニー・フィリッポウ、マイケル・フィリッポウ)
『BLUE GIANT』(2023年/立川譲)
『⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎』(2023年/古賀豪)
『ボーンズ アンド オール』(2022年/ルカ・グァダニーノ)
『フェイブルマンズ』(2022年/スティーヴン・スピルバーグ)

当館での上映作品からは『アポロニア、アポロニア』『バーナデット ママは行方不明』『とても素敵なこと-初恋のフェアリーテール-』を選んでいます。『アポロニア、アポロニア』はアート・ドキュメンタリーを装った、3人の女性についてのポートレート、もしくは女性の人生についての映画でした。ドキュメンタリーなのに撮影者が自分の存在を隠そうとしないどころか、終盤に畳みかけるようにしてどんどん全面に出てくる、ZINEみたいな映画です。今回は限定上映でしたが、まだまだ見られるべき映画だと思います。
今年は、ホラー映画を『ヴァチカンのエクソシスト』『劇場版 ほんとにあった!呪いのビデオ100』『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』の3作品も選んでしまいました。「ホラー映画が面白いかどうかって、笑いのセンスが自分にあっているかどうかに関係あるよなあ」とか思っていたのですが、『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』に関してはそんなことがどうでもよくなるくらい、もともとホラー映画が苦手だったことを鮮烈に思い出しました。本当に怖かったです。
『ボーンズ アンド オール』は、同僚からクィアリーディングの可能性について鑑賞の補助線をもらい、興味が湧いたので鑑賞しました。『フェイブルマンズ』は、アメリカの白人の爺さんの自分語りだと思い関心が湧かなかったのですが、あまりにも評判が良いので思いきって劇場まで足を運びました。至福のひとときを過ごしました。

また昨年、感染症によって終末が訪れたアメリカを舞台にした世界的ヒット作ゲーム「THE LAST OF US」(以下、ラスアス)がドラマ化されました。2023年は私にとってラスアスの年だったと言っても過言ではありません。主演のペドロ・パスカルが大好きになりましたし(憂いのある男がよく似合う)、部屋に友人を招くたびに第1話を無理矢理見せていました。ラスアスのように、数年経って振り返ったときに「2023年はあの年だった」と言えるものが他にもあったので、最後に特別に紹介させてください。

◯劇場での鑑賞機会のない映画
『チキンラン:ナゲット大作戦』(2023年/サム・フェル)
◯ドラマ
「THE LAST OF US」(2023年/製作総指揮 :クレイグ・メイジン、ニール・ドラックマン)
「テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく」シーズン3(2023年/制作総指揮・主演ジェイソン・サダイキス)

◯展覧会
「マティス展」(東京都美術館)
「第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示帰国展 ダムタイプ|2022: remap」(アーティゾン美術館)


吉田晴妃

全く個人的な理由から、2023年はとても忙しかった。よくわからないまま一年が始まって終わってしまい、気になった映画や話題になっていた作品もそんなに追えていたわけでもない。けれど同時に、仕事が終わって映画館に出かけて新作の映画を見ること、つまりすごく疲れているのに、評価もはっきりしていなくて面白いのかつまらないのか、好きになれるのかそうでないのかもよくわからないものにわざわざ手間とお金を費やす時間の未知数な感じにすごくわくわくさせられたし、癒されてもいたと思う。
ある意味でそういう時間の豊かさを感じた一年であったので、ここに挙げた以外にも、あるいはそれ以上にもっと楽しめた作品や好きな作品もあるけれど、新作としてロードショーされ、自分が映画館で見て心に残った作品を鑑賞順にいくつか挙げてみた。

『ジョージア、白い橋のカフェで逢いましょう』(2021年/アレクサンドレ・コベリゼ)
ある時はブレッソンの映画を思い出し、ある時はサイレント映画のワンシーンを見ているときを彷彿させられるファンタジー。一本の映画の中にいくつもの映画の要素が混在しているような、映画って何だろう?ということを模索する作り手の試行錯誤が感じられたし、それが遊び心やユーモアとともに語られていて面白かった。後半は映画作りについての映画で、しかもラストはすごく壮大なことを語り始めるのは、ともすれば型にはまってしまうような野心を覗かせているのかもしれないけれど、この映画を見ているときすごく豊かな時間が流れていたような気がする。
なぜそんなにこの映画が好きなのかというと、犬がワールドカップ観戦をするという不思議さと癒し度数の高さにノックアウトされたからというのは秘密……。

『アシスタント』(2019年/キティ・グリーン)
どうして「憧れの業界」と言われるような世界でハラスメントが起こってしまうのか、そこに夢をもってやってきた人が理不尽な状況にどうして耐えようとしてしまうのかを、物凄くリアリティーを持って真摯に語っていたのが忘れられない。一方でそれだけではなくて、いわゆる歯車のようにひたすら労働する一人の人間が、ふとした瞬間に垣間見せるパーソナルな表情や考えについて、つまり個人という存在のまとう公の面と個の面の揺らぎのようなものを捉えているという意味でもすごい映画だったと思う。

『デヴィッド・ボウイ  ムーンエイジ・デイドリーム』(2022年/ブレット・モーゲン)
デヴィッド・ボウイは映画で俳優として何度も見ていて(その中には大好きな作品もいくつもある)、その音楽も少しは知ってるけれどそんなに詳しいわけでもなく……という状態で鑑賞。彼自身の姿や言葉を、洪水のようにあらゆるフッテージを交えて語るこの映画そのものが、時代や文化、メディアの移り変わる中にあって、新しい一日を迎えるたびに生きながらにして日々生まれ変わるかのようなその生き方と呼応しているようで痺れた。家に帰ってからYouTubeでめちゃくちゃ彼の曲を聞き、ネットの海にボウイの映像と音楽が無限に散らばっていること自体がこの映画の続きのようだった。

『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』(2022年/ジェームズ・グレイ)
見終わってしばらくの間、アンソニー・ホプキンスという一人の存在に映画の全てを託しすぎているような気がして、自分の中であまり腑に落ちていなかった。なのに今でも、この映画で描かれていたことを本当によく思い出す。

『マリの話』(2023年/高野徹)
登場人物たちが何をしているのかよくわからない映画はたまにお目にかかるけれど、一方で『マリの話』は、○○するってこういうことなんだっけ……?と行動そのものの定義が揺らいでくるような、そういう意味で本当に不思議な映画だった。
決して大仰ではなく、はっと目を離した隙に気づいたら物凄く遠くまで行ってしまう猫のように軽やかな映画。

『ファースト・カウ』(2019年/ケリー・ライカート)
この映画の描くいろいろなことを、西部劇というジャンルにおける様々な要素から解体して読み解くこともできるのだろうし、それもきっと面白いのだと思う。けれどそんな背景は抜きにしても、誰かが誰かを見るという視線のサスペンスから生まれるドラマを静かに映像で物語っていて引き込まれた。そして何よりもこれしかない、というタイミングで終わるラストの完璧な切なさ。

『君たちはどう生きるか』(2023年/宮崎駿)
えっポスターの鳥人間(?)、なんか思ってたキャラと違う……という驚きと可笑しさから始まって、あのわかるようで全くよくわからない世界の中で次の瞬間何が起こるのかを、ひたすらわくわくしながらスクリーンを見ていた。2時間の間、何もかもを忘れて画面の中で起こっていることだけに夢中になれるくらいに最高に楽しかった。
それなのに、ある意味、ただ純粋に冒険活劇やファンタジーに身を委ねることではもはやこの世界は生きていけないという、切実さと苦さの映画でもあると思ってしまった。2023年の映画納めでした。


★Stranger お客様アンケート「2023年の映画ベスト」★

2023年12月2日〜2024年1月4日にご来館のお客様を対象に、2023年の映画ベストアンケートを実施しました。
スタッフによるベストテンと併せ、こちらで結果を発表いたします。また、Stranger館内にも結果を掲示中です。
ご参加頂いた皆さま、誠にありがとうございました!

1位『RRR』(17点)
2位『TAR/ター』(11点)
3位『EO イーオー』(10点)
4位『アル中女の肖像』(9点)
5位『ローマの休日』(8点)
6位『バービー』 (7点)
『PERFECT DAYS』(7点)
7位『ゲット・クレイジー』(6点)
『燃えあがる女性記者たち(6点)
『トーベ・ヤンソンの世界旅行』(6点)
『枯れ葉』(6点)

【お客様からのコメントを一部ご紹介】
『TAR/ター』
「『TAR/ター』は凄かった!!(エウロペ)」
「主人公の葛藤、孤独、苦悩…×クラシック、映像美、テンポすべて良かった(ナガシマ)」「ケイト・ブランシェットに魅了されました(ねこまんま)」
『ローマの休日』
「2回も観に来てしまいました!グレゴリー・ペックがサイコーにかっこよかった!(yuriyuri)」
『アル中女の肖像』
「暗く、彷徨う作品が好きかもしれません(れちゃん)」
「ボウイが住んでいた時代のすごくリアルなベルリンだった(池田和正)」
『ゲット・クレイジー』
「夏になると無性に『スタンド・バイ・ミー』が見たくなるように、暮れになると『ゲット・クレイジー』が見たくなる(アラン・スミシー)」
(敬称略)

【概要】
・2023年12月2日(土)〜2024年1月3日(水)にStrangerへご来館のお客様が対象です。
・2023年に映画館でご鑑賞になった映画を対象に、ベスト3まで挙げて頂きました。
・1位=3点、2位=2点、3位=1点として集計し合計得点の高い順からランキング。

 


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