By stranger.theater.staff
2025.01.23
作品の製作年や鑑賞方法などは問わず、自由形式でStrangerのスタッフたちが一年間に鑑賞して印象に残った映画を紹介する「Strangerベストテン」。2022年、2023年に続き、2024年のベストテンを掲載いたします。
2024年はStrangerにとって非常に大きな変化の一年となりました。その中にあって、スタッフ個人がどのように映画に触れ、どのように感じたのかということが、劇場という場、ひいては映画をめぐる振り返りとしても意味をもつことのように感じています。
選んだ映画について各自の寄せたコメントとあわせて、お楽しみいただければ幸いです。そして、2025年のStrangerもどうぞよろしくお願い申し上げます。
2023年のスタッフベストテンはこちら
飯島勝大
配信で見たものは入れず、劇場で見て面白かった映画10本にしようとしたのですが、これもう映画じゃん…って画作りのドラマ2本も入れたかったので、これで10本です(でもそれなら映画も配信含めて良かったかも…と選んでから思いました)。
『ナミビアの砂漠』(2024年/山中瑶子)
「カナに共感できない」とか「ああはなりたくない」とか「だらしない」とか、そういう感想を見るたびに劇場へ足を運んでしまい、4回も見てしまった。
『ザ・バイクライダーズ』(2023年/ジェフ・ニコルズ)
オースティン・バトラーがカッコ良すぎる。『BANANA FISH』のアッシュみたいな感じ。地方にツーリング行きがてら、また見ます。
『システム・クラッシャー』(2019年/ノラ・フィングシャイト)
これを撮ろうと思って実行したすべての関係者の心意気に拍手。鑑賞後の疲弊感をあの大人たちは真っ直ぐ受け止め続けていると思うと、言葉がない。主演のヘレナ・ツェンゲルの演技が素晴らしくて、後追いで見た『この茫漠たる荒野で』もベスト級によくて、ファンになりました。
『デューン 砂の惑星PART2』(2024年/ドゥニ・ヴィルヌーヴ)
でっかいミミズみたいなのに乗るのがなんであんなにかっこよくて、“アガる”シーンになるのか…。見た目にはあまり変化がないのに、覚醒してからのティモシーの表情や佇まい、オーラたるや…ティモシーがいなかったらこの映画は成り立ってないだろうなと思う。
『娘の娘』(2024年/ホアン・シー)
『台北暮色』が3年前のベストに入れるくらい良かったので、TIFFで見ることができて嬉しかった。複雑に絡み合う人間関係と、NYのチャイナタウンの街並みの美しさ、最後の厨房での親子の会話。大切なシーンがいくつもある。
『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』(2023年/アレクサンダー・ペイン)
最初ノーマークだったけど、同僚のM氏に勧められて見た。友達や親に勧めて、見てくれた人と話すのがとてもいい時間になったので、この映画に感謝したい。
『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』(1992年/アベル・フェラーラ)
『レザボア・ドッグス』と二本立てでハーヴェイ・カイテルをたっぷり堪能できた。くだらない同情とか共感とか抜きにして、ひたすらクズ警官が堕落していく。野球賭博は人を追い込みます。
『チャレンジャーズ』(2024年/ルカ・グァダニーノ)
くだらなくて最高。ボールとラケット、コートと靴、アップビートなテクノにばっちりはまって気持ちいい。
ドラマ
『THE PENGUIN-ザ・ペンギン-』(2024/製作総指揮、監督:クレイグ・ゾベル)
今年見た映像作品で一番面白かった。映画じゃないけど、これは間違いなく8時間の映画だった(Apple TVとかでも映画監督にドラマを撮らせる流れがあるけど、もっとやれという気持ち)。ソフィア・ファルコーネが良すぎる。
『トゥルー・ディテクティブ ナイトカントリー』(2024/イッサ・ロペス)
S1が自分のオールタイムベストドラマ。ツインピークス的な始まり方から思ったよりオカルト要素強めの女バディものにシフトしていく。シリーズで最も、“アメリカ地方臭”を感じることができました。
林
『プリシラ』2023/アメリカ・イタリア合作/ソフィア・コッポラ
『時々、私は考える』2023/アメリカ/レイチェル・ランバート
『異人たち』2023/イギリス/アンドリュー・ヘイ
『ゴースト・トロピック』2019/ベルギー/バス・ドゥボス
『Here』2023/ベルギー/バス・ドゥボス
『An Urban Allegory』2024/フランス/アリーチェ・ロルヴァケル、JR
『The Outrun』2024/ドイツ・イギリス合作/ノラ・フィングシャイト
『パスト ライブス/再会』2023/アメリカ・韓国合作/セリーヌ・ソン
『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』2023/アメリカ/アレクサンダー・ペイン
『ビートルジュース ビートルジュース』2024/アメリカ/ティム・バートン
2024年に私を魅了したキーワードは孤独、お別れ、ディアスポラでした。人間が癒せない感情を自然から癒されることを学びました。世の中のすべては自然から生まれるものです。
「強風の後には良いものが見つかる。もし何かを見つけたなら、それはあなたのもの。私がまばたきしたら太陽が輝き、息は雲を押しのけて空を横切り、波は私の心臓の鼓動に合わせて海へと押し寄せる。私という大陸について。」 –The Outrun(2024)
『プリシラ』(2023年/ソフィア・コッポラ)
愛は美しいと誰が言ったのか。本当は終わりの見えない不安や恐怖しかないのに。恋という罠にかかった女性が感じる空虚さ、孤独、無力感を描いている作品で、始まってから3分ぐらいでこの映画絶対好きだろうなと確信できた。
『時々、私は考える』(2023年/レイチェル・ランバート)
目を開けているから、息をしているから、生きているのだろうか。生きているまま死んでいる人も、死んでいるまま生きている人もいる。人間が人間らしく生きることがなぜこんなに難しいのか。自分にもわからない自分の気持ちをわかってくれる人はいるのかな。自分がもどかしくて涙が出ちゃう。
『異人たち』(2023年/アンドリュー・ヘイ)
喪失による心に開いた穴を埋めるのは、思い出だけ。長い人生、永遠の孤独との戦いだ。
『ゴースト・トロピック』(2019年/バス・ドゥヴォス)
いつもより長く感じる日がある。眠れない夜、私だけに見え、私だけに聞こえる風景を見つめる。夜が明け、眠っている人とまだ目を覚ましている人が出会う時が訪れると、私だけが知っている無数の出逢いや出来事があったこの夜は、長いのか短いのか、分からなくなる。
『Here』(2023年/バス・ドゥヴォス)
今、この瞬間、目の前にあるものに集中して、それをじっと見つめること。その瞬間のすべてを信じる。
『An Urban Allegory』(2024年/アリーチェ・ロルヴァケル、JR)
アリーチェ・ロルヴァケル監督とJRの約20分の短編。私たちは色んなものが溢れる世の中で生きていて、多くのものを見逃している。映画というスクリーンの中のイメージは虚構といえるが、それに気づいた瞬間、イメージは真実を語る口になる。スクリーンを越えて現実を見てみよう。この作品を観て『墓泥棒と失われた女神』がもっともっと好きになった。
The Outrun(2024年/ノラ・フィングシャイト)
『システム・クラッシャー』のノラ・フィングシャイト監督の新作。アルコール依存症の治療施設を出て地元の島に戻ってきた主人公ロナ。途中、人間関係を築くことが難しくなったり、トラブルが起きたりすることもあるけど、ロナは目の前の自然を感じながら完全な治癒を望んでいる。よく知っている場所に戻ると、それだけで精神が安定する。自分を生かすのは結局、自分自身だということ。自分を諦めないこと。
『パスト ライブス/再会』(2023年/セリーヌ・ソン)
自分も生まれた国から離れている人なので、共感できるところが多すぎて、映画の半分は泣いた。生きてきた道に後悔はないけど、人間関係にはどうしても後悔が残る。後悔しても、何も変わらないけど。
『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』(2023年/アレクサンダー・ペイン)
一人残された人々が作り出したこの暖かさ。ヒューマンコメディならではの感動がある。メリークリスマス、クリスマスはもう寂しくない。冬はもう寒くない。
『ビートルジュース ビートルジュース』(2024年/ティム・バートン)
父親が大好きで何回も一緒に観た思い出の映画『ビートルジュース』。約35年振りの続編、レギュラーキャスト全員続投で最高すぎた。感謝しかない。
カンサイラ
2024年、ふと思い出してはお守りのようにぎゅっと抱きしめたくなる映画にいくつも出会えた一年でした。今年は鑑賞中の睡魔に打ち勝ちたい……。
※順不同
『楽園』(2021年/ゼノ・グラトン)
最後画面が真っ暗に切り替わった瞬間、「愚か〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」と思わず叫んでしまった。青くて、痛くて、愚かで、よかった。
『ビヨンド・ユートピア 脱北』(2023年/マドレーヌ・ギャヴィン)
どれだけ書いては消してを繰り返しても適当な言葉が見つからない。ただ見れて良かった。知れて良かった。この映画を見ずに死なない人生で良かった。
『燈火(ネオン)は消えず』(2022年/アナスタシア・ツァン)
見惚れるくらい綺麗なネオンの灯りも、それぞれに愛が溢れた物語も、全てが美しかった。私にとって愛は美しいもの。そうあって欲しいもの。
『Here』(2023年/バス・ドゥヴォス)
瑞々しい映像に心を奪われた作品。ラストのセリフを聞いた瞬間の衝撃を今でも新鮮に思い出すことができる。
『ミレニアム・マンボ 4Kレストア版』(2001年/ホウ・シャオシェン)
冒頭「A pure person」を背景に黒く長い髪をなびかせて颯爽と歩くスー・チーの姿があまりにもかっこよくて、眩しくて……。生きるってどうでもいいことの積み重ねなんだって思った。側から見たらバカバカしくて、何をそんなにって思うようなことだらけだけど、別にそれでいいんだ。今年は本当の意味で生きたい。
『美しき結婚』(1982年/エリック・ロメール)
エリック・ロメールの作品に出てくる主人公たち、みんなして私が自分自身にうんざりする部分を持ち合わせていて嫌になる。だけどそんな自分にちょっと愛おしさを感じているから、きっと今日まで心に残っているのだろう。
『フォールガイ』(2024年/デヴィッド・リーチ)
さとみんさんの「見て!」にハズレなし!『恋するプリテンダー』もおすすめされたまま見ることができていないので近いうちに必ず……!
『風櫃の少年』(1983年/ホウ・シャオシェン)
なんか、あいつの全部に私がいたな、上手くいかないこと、上手くいってると思ってたのは自分だけで、浮かれて周り見てるつもりでも全然見えてなかったところも、あいつらとは違うって思ってても気づいたら自分の方が置いてかれてる気がするのも、あいつのいろんな行動に哀れな自分がいたな、めちゃおもれーかった(自身の日記より抜粋)
『心と体と』(2017年/イルディコー・エニェディ)
自分自身の一番脆い部分を共有できた気がして大きな喜びを感じた。2024年ベストです。
『天安門、恋人たち』(2006年/ロウ・イエ)
彼女の痛みが、スクリーンを超えて私の痛みになっている。
きっとそれをなぞりながら生きていく。
鈴木里実 Satoming
みなさま、本年も何卒よろしくお願いいたします!2024年はStrangerの体制が大きく変わりました。変化を柔軟に受け入れ楽しみつつ、変わらずにありたいものは続けていくぞと、そう強く思う年となりました。そんな中でもいつもご愛顧いただきありがとうございます。さて、その激動の2024年。新作は今回もNOBODYさんの方で発表させていただく予定なので、こちらでは名画座等で鑑賞した旧作8選を挙げます。
★2024年に名画座等で鑑賞して強く心に残った作品8選(2024年初見、特集開催順)
・『ストレンジャーズ6』(1949年/ジョン・ヒューストン)シネマヴェーラ渋谷「Film Gris 赤狩り時代のフィルム・ノワール」より
・『生者と死者のかよい路 -新野の盆おどり神送りの行事』(1991年/野田真吉)国立映画アーカイブ 「NFAJコレクション 2024 冬」より
・『ダブルEカップ 完熟』(1988年/浜野佐知)国立映画アーカイブ「日本の女性映画人(2)――1970-1980年代」より
・『私の彼氏』(1947年/ラウォール・ウォルシュ)シネマヴェーラ渋谷「ウォルシュを観て死ね!」より
・『柔道龍虎房』(2004年/ジョニー・トー)早稲田松竹「ジョニー・トー監督特集」より
・『実録 白川和子 裸の履歴書』(1973年/曽根中生)ラピュタ阿佐ヶ谷「ちょっと冒険してみない? 「ORGASM」的偏愛ロマンポルノ」より
・『青春がいっぱい』(1966年/アイダ・ルピノ)シネマヴェーラ渋谷「カメラの両側で… アイダ・ルピノ レトロスペクティブ」より
・『仇討崇禅寺馬場』(1957年/マキノ雅弘)神保町シアター「一度はスクリーンで観ておきたい――マキノ雅弘の時代劇傑作選」より
年明けにヴェーラで見た『ストレンジャーズ6』、ヒューストン作品にこんなにも熱い革命の映画があったのかと驚きました。映画の半分以上でずっと地下を掘り続けているのですが、その描写がすごい。やっぱりジョン・ヒューストンだ!特集を実現させなければ!と胸に誓ったのでした。参加者を羨むしかなかった2023年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で開催されていた「野田真吉特集」をアーカイブの小ホールで見られる!と喜び出掛けた『生者と死者のかよい路 -新野の盆おどり神送りの行事』は、何がすごいのかいまだ言葉にはできないのですが、上手なのか下手なのかも判断できない、ただただその地域に住む人々が踊り(もはや踊りと呼んでいいのかもわからない、ある動作)を繰り返しながらも祭りの終わりに向かっていく様に、ここではない別の次元に連れて行かれました。大ホールの方では『ダブルEカップ 完熟』。恥ずかしながら浜野佐知監督作品を初めて見たのですが底知れぬ力というか、突拍子もない設定なのにとにかく元気が出たのを覚えています。まだまだ自分の知らない世界があったことにも嬉しくなりました。タイトルの名前が挑発的でとても良いウォルシュ特集からは、敬愛するアイダ・ルピノ主演の『私の彼氏』。アイダ・ルピノ様の往復ビンタ!ハスキーボイスで歌唱も素晴らしいルピノの魅力を存分に活かしたウォルシュの演出に痺れました。ありがとうウォルシュ!そして早稲田松竹ジョニー・トー特集!中でも『柔道龍虎房』!!野良柔道集団最高です!ジョニトー先生にずっとついていく、そう!ジョニー党!支持率100%!と、とんでもなく血が滾りました。ジョニトー先生の『姿三四郎』リスペクトによりアーロン・クオックは藤田進に見えてくるし、人生の節目節目で見たい映画です。今年の夏一番熱かった特集といえばラピュタのロマンポルノ特集。『実録 白川和子 裸の履歴書』では、白川和子さんの佇まいに圧倒されました。大手映画会社に中指立てつつ頑張る白川さんのしょぼしょぼ歩きがとにかくいい、と見ていたら『関東緋桜一家』の藤純子に勝るとも劣らないラストのご挨拶。この涙はどこから?というくらいとめどなく溢れました。私のための特集ですか……?とも思えたアイダ・ルピノ特集ではようやく『青春がいっぱい』を!物語の核となる修道院の院長役として登場するロザリンド・ラッセル。ルピノ最後の監督作に彼女が出てくるというだけで拍手喝采ではあるのですが、生徒と共に学んでいくロザリンド・ラッセルが素晴らしすぎて。胸いっぱいです。年末は神保町駆け込みで『仇討崇禅寺馬場』。そこにまだ見ぬマキノがあるならば万難を排して行くという誓いを立てているものですから、一旦抱えている全てを放置して行ってきました。やはり行って正解でした(とは言えたとえ面白くなくてもそれはそれでいいのです)。山上伊太郎の原案がやばいのか依田義賢の脚本が過剰なのかマキノ演出が強引なのか大友柳太朗の度が過ぎているのか、全く予期せぬ展開に口を開けたまま、しかししまいには説き伏せられ気が付いたら終わっていました。感動でも感心でもなく、ただ呆気に取られる映画です。マキノ補給してエネルギーチャージできました。
2024年を映画と共に振り返る個人的なエッセイみたいになってしまいました……。無理矢理まとめますが、2025年のStrangerも見守っていただけたら幸いです。
スタッフS
2024年公開の新作の中で、劇場で鑑賞した作品から10作品選定しました。
昨年はあまり劇場に足を運ぶことができていなかったのですが、その分、毎回を貴重な鑑賞機会として全力で楽しめたような気がします。
Strangerも素敵な映画との出会いを提供する場所となれるよう、今年も尽力してまいります!
①『密輸 1970』(2023年/リュ・スンワン)
中盤からのテンポとサメが最高。
要素が詰め込まれた中でもキャラクターの立たせ方とアクションがしっかりしていて、ノリの良い音楽とともに楽しめました。
②『ぼくのお日さま』(2024年/奥山大史)
画面の外側が見たくなるほど儚く綺麗な映像。
二人のスケート靴がリンクと擦れる心地よい音にもグッと惹かれました。
③『侍タイムスリッパー』(2024年/安田淳一)
「真剣」を観客に意識させるための構成と、ちょうど良く散りばめられた笑いの要素。
満席の劇場で映画を観る楽しさに改めて気付かされた作品でした。
④『チャレンジャーズ』(2024年/ルカ・グァダニーノ)
どうでもいい3人の欲望についていけないまま……ツッコミたくなるオチ。なのに何故かベストテンに挙げてしまう不思議な魅力がある作品です。
⑤『人間の境界』(2023年/アグニエシュカ・ホランド)
絶望的な状況を際立たせる、生々しいモノクロの映像。
観終えた後にタイトルの意味をすごく考えました。
⑥『Cloud クラウド』(2024年/黒沢清)
プロではない一般人たちによる、不安定なのが逆に怖い銃撃戦。悪意の大きな連鎖と対照的な登場人物の淡々とした会話も恐怖でした。
⑦『大いなる不在』(2023年/近浦啓)
冒頭の警察の突入シーンの印象が強烈。
ミステリーかと思わせる入りからの、あるひとつの「家」を悲しいほどリアルに描いた作品でした。
⑧『夜明けのすべて』(2024年/三宅唱)
登場人物たちを見守っているかのようなカメラワーク。
小さい部屋の中で髪を切る切られる二人の距離感が、異様な雰囲気ながらもなぜか納得感がありました。
⑨『リンダはチキンがたべたい!』(2023年/キアラ・マルタ、セバスチャン・ローデンバック)
観ていて飽きないカラフルな色使いとテンポ感。
緩いテンポながらも激しい展開で、ラストはしっかり着地してくれる素敵な作品です。
⑩『関心領域』(2023年/ジョナサン・グレイザー)
登場人物を研究対象のように俯瞰して見続ける体験。
見えている映像と微かに聞こえてしまう音のあいだで終始揺さぶられ続け、画面に見えていない部分を想起させる奥行きを感じました。
瀧ヶ崎志帆
2024 BEST CINEMA by takistar☆彡
2024年、心に残った作品をこうして振り返ると、もう二度と戻らないものへの思いや待ってはくれない時間に対して戸惑う自分自身の感情が色濃く反映されているな…と思います(笑)。今っぽい「エモい」という言葉ではまとめたくはないのですが、ある程度年齢を重ねて、自分自身以外にも、家族や友人、周囲の環境の変化でふと人生の時間が無限ではないことに気付かされることが増えました。当たり前にあるものも変わらず永遠にあり続けるわけではないのだ。分かっていたつもりでも、それが現実味を帯び、その気配を感じ始めて、ようやく自分自身が何にも分かっていなかったことに気づいたように思います。今をとりあえず生きてきたような自分が、歩んできた道で後ろを振り返り、そしてこれからどうしていくのか。これらはその現在進行形の今を生きていく中での大事なヒントをもらった作品です。
『ロボット・ドリームズ』(2023年/パブロ・ベルヘル)
幸せのかたちは変化する。ロボットくんの想いの選択に涙。そして尊敬の念すら感じました。誰かを愛するというのはこういうことなのだろう。人生ってなんてこんなにも山あり谷ありで、それでいて素晴らしいのだろう。
『パスト ライブス/再会』(2023年/セリーヌ・ソン)
幾度となく訪れるタイミングにもどかしい気持ちもあったけれど、その時の自分はもう一度やり直したとしても同じ選択をするのかもなあ…などと思ったりもして、“今”の出会いへの思いと脳裏にぼんやりと焼きついて“思い出”になった時間との思いの間でグッと苦しくなって、あの帰り道の彼女の気持ちを想像して涙してしまいました。
『リスト』(2011年/ホン・サンス)
やることリストを書くところから最後のオチまで、何だか自分自身を見てるような作品で、たった28分だけどホン・サンスワールドにグッと掴まれ、そして最後はまるで監督直々に喝をいただいたような、そんな感覚に陥る作品でした!笑
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(2024年/トッド・フィリップス)
賛否両論ありますが、私はすごく意味のある作品だと感じました。ただただ、「What the World Needs Now is Love」なのだ。アーサーの「もう歌は歌いたくない」という言葉が忘れられないです。今回も流れたフランク・シナトラの「That`s Life」含め選曲が良くてアーサーの人柄そのもののようでした。
『SUPER HAPPY FOREVER』(2024年/五十嵐耕平)
これから何かが始まりそうな、あの何とも言えない感覚!
いい意味でとても生々しくて愛おしい瞬間を見ました。
最初は分からなかった、何でそんなに哀しげで必死に赤い帽子を探しているのか。
分かった瞬間に足りないものの存在と、それでも変わらずあり続ける景色や果てしない海の存在がある意味残酷なようにも思えたし、永遠を感じた。
『侍タイムスリッパー』(2024年/安田淳一)
こんなに1つの作品で、泣いて、笑って、考えて、反省して、最後に拍手して…。こんな風に鑑賞した作品はなかなか無いなあ…と思います。令和7年。ここに至るまでに積み重なってきた歴史に現代を生きる私たちはもっと関心を向けるべきだし、当たり前は当たり前ではないし常識は常識ではなかったということを少しでも体の奥底で感じる手段としても、この映画は映画館で観る意味があると思います。これはやはりタイムスリップしてきた侍さんだから伝えられること。
『ルックバック』(2024年/押山清高)
自分という1人の人間の中だけで考えて考えて頑張ろうとしても、思うようにいかなくて空回りして自己嫌悪に陥って人の才能や人生を羨むことに辿り着く負のサイクル。
そんな魔のサイクルから救い出してくれるのはやっぱり自分以外の誰かで、絶対に全く同じようには共有できない頭の中、心の中の思いを「言葉」を使ってできる限り伝えようと向き合ってくれる人の存在なんだと思います。違う映り方を互いに教え合えるって素敵。
『めくらやなぎと眠る女』(2022年/ピエール・フォルデス)
大学の卒業論文で村上春樹について書いた思い出のある私自身、ピエール・フォルデス監督の描く世界は私が小説を読みながら頭の中で想像する作品世界と近いものがあるかもしれないと感じました。ふと、現実から離れて春樹作品の世界に行きたいなあ…と思うように、もう少しあの世界に浸っていたい…と感じて2回映画館に足を運んだ作品です。
『それぞれのシネマ 〜カンヌ国際映画祭60回記念制作映画〜』(2007年/レイモン・ドパルドン、北野武、テオ・アンゲロプロス、アンドレイ・コンチャロフスキー、ナンニ・モレッティ、ホウ・シャオシェン、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ、デヴィッド・リンチ、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、チャン・イーモウ、アモス・ギタイ、ジェーン・カンピオン、アトム・エゴヤン、アキ・カウリスマキ、オリヴィエ・アサヤス、ユーセフ・シャヒーン、ツァイ・ミンリャン、ラース・フォン・トリアー、ラウル・ルイス、クロード・ルルーシュ、ガス・ヴァン・サント、ロマン・ポランスキー、デヴィッド・クローネンバーグ、ウォン・カーウァイ、アッバス・キアロスタミ、ビレ・アウグスト、エリア・スレイマン、マノエル・デ・オリヴェイラ、ウォルター・サレス、ヴィム・ヴェンダース、チェン・カイコー、ケン・ローチ)
短編の後にそれぞれの監督の名前が出てくるので、クイズ形式で誰の作品なのか考えながら観るのもとても楽しかった作品!ラース・フォン・トリアーの名前が出た時に思わず笑ってしまった自分にちょっと成長を感じた作品でもあります。映画界の巨匠たちがそれぞれの個性で考える「映画館」の姿はとても贅沢であり、映画の良さを再実感する時間でした。
もう一度観たい!
『セルピコ』(1973年/シドニー・ルメット)
劇場鑑賞ではないですが、年末に観て久々にファッションに目を奪われてしまった作品です!もし飲み屋で出会ったら、「アパレル関係…または美容師?理容師さんですか?」と絶対に本当の職業を当てることができないだろうなと思うハイセンスすぎるファッションは本当に「かっこいい!」の言葉に尽きます。そしてアル・パチーノのイケメンさを再確認する作品でもあります。お髭たっぷりな姿も最高にセクシーでかっこいい!!!
増田
2024年、印象に残った5本です。
『トレンケ・ラウケン』(2022年/ラウラ・シタレラ)
気づけば物語の世界に誘われ、心には喜びや哀しみが漂い、そっと染み渡っていく、不思議な旅路。
『Roter Himmel(原題)』(2023年/クリスティアン・ペッツォルト)
すべてを焼き尽くした森林火災。微かな希望が顔をのぞかせ、穏やかなカタルシスに包まれた。
『煙突の中の雀』(2024年/ラモン・チュルヒャー)
まったく消化できておらず、少なくともあと2回は観る必要がある。強烈な印象とざわめきが今でも頭を離れない。
『No.10』(2021年/アレックス・ファン・バーメルダム)
人生を茶番劇として楽しむことが、どこか不思議で思い通りにならない日常を豊かにする鍵かもしれない。
『マンティコア 怪物』(2022年/カルロス・ベルムト)
傷つけ、傷つけられる。避けられない現実を受け入れ、希望を信じ、生きていく。
宮田理世
2024年は、ドキュメンタリー作品を多く鑑賞した2023年に比べて、ジャンルの幅を広げて様々な映画に触れました!幅を広げたからこそ、フィクションとドキュメンタリーの境界を行き来するように感じられた作品にも、いくつか出会いました。
今回選んだのは、ドキュメンタリー作品からフィクションまで順不同で、全て劇場で鑑賞した映画です。(結局ドキュメンタリーが多くなっています…。)
『ヒューマン・ポジション』(2021年/アンダース・エンブレム)
アスタとライヴの日々を、まるでドキュメンタリーのようにカメラで追った作品。何といっても、ノルウェーの風景が美しく、うっとりとしてしまった。2人の何気ない仕草や会話を観察していると、アスタとライヴがどこか社会に対する疑問を抱えながら生きていることに気づかされる。
『キノ・ライカ 小さな町の映画館』(2023年/ヴェリコ・ヴィダク)
カウリスマキが地域と映画の関係をどのように捉えているのか、この作品を通じてひしひしと伝わってきた。キノ・ライカの座席に座っているかのような感覚を覚える描写が忘れられない。「ここに映画館ができるんだって」という人々のささやかな期待と希望が、映画館の完成をそっと後押ししていたように感じられた。
『バティモン5 望まれざる者』(2023年/ラジ・リ)
映画チラシを一目見たときから、美しいパリ…とは思わせない決意のようなものを感じ取り、ずっと気になっていた映画。日々接するメディアによって、自分の視野がいかに制限されているかを、改めて実感させられた。いくつものセクターが思惑と共に複雑に絡み合い、衝突する場面に何度も釘付けになった。自分だったらなんて答えるのか、そんな問いを終始考え続けていた。
『マリウポリの20日間』(2023年/ミスティスラフ・チェルノフ)
ロシアによる侵攻で、ウクライナの都市マリウポリが壊滅するまでを記録したドキュメンタリー。一つの都市への侵攻を時間軸に沿って追うことで、そこに住む人々や、最後に社会、そして世界がどのように変容したのか、前後を何度も想像させられながら鑑賞した。侵攻前の日常や人々の姿があるからこそ、凄まじく悲劇的な変化がより鮮明に浮かび上がり、まるで自分がカメラを手にしているかのような感覚さえも得た。
『ヤクザと憲法』(2015年/圡方宏史)
去年に引き続き、今年も圡方監督の作品を3本鑑賞した。その中でも特に記憶に残っているのが『ヤクザと憲法』。映画を観て、どの立場からヤクザの存在を捉えるのか?少なくとも私が抱いていたヤクザへの偏見は容易に崩された。社会制度と組織、人権、社会的排除といったテーマから考えさせられる作品。
吉田晴妃
2024年に劇場で鑑賞した作品の中から、制作年代を問わずに(こんなにもリバイバル上映や特集上映があちこちで行われていると、いち観客としては新作と旧作にそこまで大きな線引きはないような気持ちになる)印象に残ったものを鑑賞順に挙げた。
『風と共に散る』(1956年/ダグラス・サーク)
色々が立て込んでヘロヘロに疲れていた一月の夜に映画アーカイブに向かい、不幸の連続するベタベタな男女四人のドラマにボロボロに泣いた。
車が爆走したり階段から転がり落ちたり拳銃が暴発したり、やりすぎじゃない?というくらいの描写の積み重なりになんという運命の坩堝…と思いながらも、自らの一番の望みがかなわずとも他人の人生への思いやりを見せるという結末がすごく尊いもののように思えた。
サークの作品にはいつも、人の心の中にあるかなきかのピュアなところを開いて見せられたかのような気持ちになる。
『瞳をとじて』(2023年/ビクトル・エリセ)
映画がいかにして記憶をとどめておくことができるのかという、ものすごく「映画についての映画」であり、それと同時に、もしかしたらほかの生き方もあったかもしれないのに「映画を作らない時間」を長く積み重ねてきた人の話でもあって、その二つがこの映画の中ですごく対等に存在していたのが感動した。
一番最初のカットで古い屋敷の全景が映った瞬間、いったいどうしてそう思ったのか、『ミツバチのささやき』と『エル・スール』のことがすっとよみがえって、自分は今エリセの映画を観ているんだという気持ちになったのが不思議だったことをよく覚えている。
『マリー・アントワネット』(2006年/ソフィア・コッポラ)
10年以上前に初めて見たときは、自分の半径数メートル範囲くらいにしか興味の向くところのない女の子の話と、一方で華やかに可愛らしく飾られた荘厳な宮殿とがちぐはぐに思えて、見かけ倒しの退屈な映画だと思った。
去年二本立てで上映されていたときに再見したら、置かれた状況に対してキルスティン・ダンストことマリー・アントワネットの抱いた感情がはっきり捉えられていて、彼女がどう思ったのかということをそのように物語ることが一人の女性の生きた証を映している、と思えるくらいに瑞々しかった。
『プリシラ』や『シビル・ウォー アメリカ最後の日』を観ているときも、思いの至る先のひとつにこの映画があったように思う。
『コット、はじまりの夏』(2022年/コルム・バレード)
そんなに互いのことをよくわかっていない二人の人間がひとつの空間にいて、何か声をかけたいんだけどそれをどう言葉に表せばよいものか…という、コミュニケーションの中の形にできない空白という微妙な時間が映画の中にちゃんと存在していて良かった。あまりこういうことは言いたくないけれど、自分自身も話の得意な人間ではないので、「沈黙は悪くない」という考えがきちんと映画の在り方として完成させられていることにはすごく救われた。
アイルランドが舞台の(しかも聞きなれないアイルランド語で話す)この映画の英語タイトルが『The Quiet Girl』というのも絶妙だと思う。
『ザ・デッド/「ダブリン市民」より』(1987年/ジョン・ヒューストン)
知らない人の家のクリスマスパーティーにうっかり紛れ込んでしまったみたい…と身構えた序盤はつかの間。あるいはパーティーに集う人々の様子であったり、あるいはよく知っていると思っていた人に自分の知らない過去があるということであったり、人物のそれまでに生きてきた時間という、目に見えないしはっきり描かれてもいないものの存在が感じられるすごい映画だった。
『違国日記』(2024年/瀬田なつき)
他愛ないといえるような日々の中に、登場人物たちにとっては何か大事なことを話していて、あの時こういう話をしたな、ということを彼女たちはいつか思い出すんだろうな…と見ているだけではっきりわかるやりとりが存在していて良かった。ずっと見ていたいと思えるような時間が流れていた。
『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』(2023年/アレクサンダー・ペイン)
それまで関わり合いのなかった三人の人物がともにクリスマス休暇を過ごし、やがて絆が生まれる…という、「ヒューマンドラマ」として一言で括られてしまいそうな映画の物語の中に、自分以外の他者とともに過ごすなかで、秘密を共有しあうことによって相手がだんだん特別な存在になっていくんだな、と感じられる描写があったので印象深かった。
『ヒットマン』(2023年/リチャード・リンクレイター)
えっこの話ひどすぎじゃない?自分たちさえ幸せになれればそれで良いの??と、もはやコメディとして消化して良いものなのかどうか迷うくらいの筋書きに困惑しつつ、他人を欺くための即興芝居の掛け合いがぴったり決まる一連のシーンのもたらす快感がほかにない見事さだった。面白かったです。
『悪魔と夜ふかし』(2023年/コリン・ケアンズ、キャメロン・ケアンズ)
個人的には今まで悪魔を恐怖の対象と思ったことはないものの、劇中で見せつけられる、エンタメというものが元来持っているのだろう見せ物として派手なものを求める欲求によってまさしく「悪魔に魂を売った」…というオチは少し怖かったし、今にも何か取り返しのつかないことが起きそうな不穏さの中にある生放送というシチュエーションも面白かった。ファウンドフッテージものの体裁をとったコメディアンの成功願望ものであり、なんだかクラシックな描写の悪魔ホラーものでもあり、70年代という設定を反映したのだろうちょっともったりとしたテンポと雰囲気も含めて最高のハロウィンムービーだった。
『フェラーリ』(2023年/マイケル・マン)
フェラーリ創業者についての映画なのだろうとあらすじをあまりよく知らずに観に行ったら、気がつけば二つの家庭を抱えていて、片方では社長として振る舞い事業の補佐を得ながら、もう片方では精神的安らぎを得ているというアダム・ドライバーの話だった。
つまり、映画の中ではいつも一度に二つ以上の事柄が同時に進行していて、それが最後まで何も変わらないわけもなく、何か神妙な会話シーンとかで解決されるわけでもなく、最後に凄惨な大事故が起きて状況が動いていくという、物語られたことの行く先にスペクタクルの起きる映画ですごくストレートに見応えがあったし、強度のある映画だと思った。
渡邊実夢
『夜明けのすべて』(2024年/三宅唱)
藤沢さんが山添くんの部屋でポテトチップスの残りかすをがーっと口に流しこむ場面がずっと印象に残っています。「これもらっていい?」と藤沢さんがポテチを指したとき、わたしはすっかり持ち帰るものかと思っていたので、「いまここでそんなふうに食べちゃうの!?」とおどろきましたが、それをまったく気にもかけずにひどい姿勢でパソコンをいじる山添くんとの画が、ふたりの関係性をぱっと提示する巧いショットで唸りました。それからやっぱり最後の渋川清彦の表情、あれが撮れてしまっているだけでもう言うことなかったです。奇跡のショットすぎる。
『地獄のSE』(2024年/川上さわ)
なんだかよくわからないがさがさの画質と字幕に首をかしげているうちに、なんだかよくわからないカタルシスに魂が浄化され、べつの言語世界に連れてゆかれるような映画でした。かれらのやりとりから滾るポエジーにすっかり心奪われてしまい、ポレポレに通いました。川上監督の映画文法には直接脳とからだに語りかけてくる独特のグルーヴ感があって、『散文、ただしルール』も最高でした。からだにピース、ピースオブケイク。
『石がある』(2022年/太田達成)
加納土さんがざぶざぶと川を渡ってくる場面で劇場が笑いに包まれ、映画館という共有された場で映画を見る愉しみを再確認した映画でした。現代社会が忘れてしまった純粋な「遊び」とゆるやかに流れる時間のなかに観客を放りこんでくれる一本、現実逃避したいときにぜひ! この映画以降石への関心がわいてきて、『いい感じの石ころを拾いに』とユリイカ「石」特集を読みました。
『ロボット・ドリームズ』(2023年/パブロ・ベルヘル)
人生……! 見終えてからしばらくは「September」をリピートしては感傷に浸っていました。それから山崎まさよし「One more time, One more chance」もおなじリストに入れて聴きこみました。そんな愁いの11月でした。
『パスト ライブス/再会』(2023年/セリーヌ・ソン)
最近ひさしぶりに見返してみたら、「韓国人はノーベル文学賞を取れないもの」という台詞があり、封切り時はなにも感じなかったひとことにぐっと来てしまいました。タクシーを待つ最後のあの時間は永遠に続くようでいてあっという間でもあって、忘れがたくロマンティックな瞬間でした。
『違国日記』(2024年/瀬田なつき)
「盥回しは無しだ」とまっすぐこちらを見つめる槙生ちゃんのショットで毎回泣いてしまいます。新垣結衣のすこしざらついた低い声によって、「あなたを踏みにじらない」という台詞にこめられた意思は朝を超えて観客にまで手渡され、きっとたくさんのひとの魂を救ったことと思います。もっとはやくこの物語に出会いたかった!と心の底から思える作品でした。
『すべての夜を思いだす』(2022年/清原惟)
大好きな作家である滝口悠生が出演しているということで見に行きました。滝口さんは出演した感想として「虚構の人物としてある場所に存在する」ことの難しさについて書いていましたが、一瞬気がつかないくらいには多摩ニュータウンに生きる住民でした。街に降りつもったひとびとの暮らしと時間の層を個人の生から語る姿勢に滝口さんの小説との共通点を見たような気がします。
『三つ星レストラン/至福のトロワグロ』(2023年/フレデリック・ワイズマン)
料理をつくる手つきのうつくしさもさることながら、お客さんそれぞれのアレルギーや要望を記憶する給仕係の仕事に感動しました。カメラの位置をみるに作業の邪魔になってはいまいかとそわそわしてしまう場面も多かったのですが、出演者に撮られている意識があってこそのワイズマンですよね! チーズ工房の場面がかっこよくて、チーズ職人になりたくなりました。
『彼方のうた』(2023年/杉田協士)
前作の『春原さんのうた』には「不在のぬくもり」のようなものを感じましたが、今作には逆に「不在のつめたさ」ばかりを肌に感じ、おそろしい映画だと思いました。いまだにこの映画に対することばを「こわい」しか持ちあわせていません。
『きみの色』(2024年/山田尚子)
「物語の小ささ」みたいなものに惹かれた作品でした。きみちゃんの退学の理由を省略したり、メインキャラ三人の背景を深くは語らないナラティヴのミニマルさに加え、かれらの関わりがこれっきりである可能性をも思わせる良い意味での関係性の小ささは、なかなか見たことのないものでした。Strangerでの上映を含め3回見てしまったのですが、毎回「水金地火木土天アーメン」でブチあがりました。
『ドキュメンタリー オブ ベイビーわるきゅーれ』(2024年/高橋明大)
かっこいい!のひとことに尽きるドキュメンタリーでした。地べたに座りこんでゆっくりとお弁当を口に運ぶ伊澤さんの様子が、箸をもらえず手で弁当をかきこむ冬村かえでの姿に重なって、やはりまひろとかえでは紙一重であることを痛感した一本です。『ナイスデイズ』、『エブリデイ!』もどちらも最高で、ちさまひだけじゃなくかえでも夏目さんも日野さんも大好きになってしまいました。
Strangerスタッフによる2023年映画ベスト&お客様アンケート「2023年の映画ベスト」結果発表
Strangerで勤務するスタッフたちの2022年映画ベストテン
涌井次郎(わくいじろう/輸入映画ソフト専門店「ビデオマーケット」店主)
1970年生まれ。新潟県上越市出身。
柳下 毅一郎(やなした・きいちろう/特殊翻訳家・映画評論家・殺人研究家)
一九六三年大阪生まれ。雑誌『宝島』の編集者を経てフリー。
堀 潤之(ほり・じゅんじ/映画研究・表象文化論)
一九七六年生まれ。専門は映画研究、表象文化論。関西大学文学部教授。
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