By Stranger Magazine
2023.01.18
Strangerで勤務するスタッフたちの2022年ベストテンを掲載します。
映画・映像作品へのアクセスの手段が多様化している状況を踏まえ、作品の形式や製作年、鑑賞方法などは問わず、「2022年に鑑賞して心に残った作品」という条件で、スタッフに自由形式のベストを募りました。選ぶ作品の本数や、ランキング・順不同といった作品の挙げ方などのベストの形式には縛りを設けていませんが、選んだ作品について各自がコメントを寄せています。
スタッフ全員に映画好きという共通項はあれど、名前の挙げられた作品はさまざま。2022年の映画の振り返りにも、もしかしたらまだ知らない作品との出会いにも、ぜひご覧ください。
岡村忠征(Stranger代表)
『ドンバス』を入れたかったが、2018年製作の作品ということで選外にした。Strangerの開業業務に追われに追われに追われ、2022年は下半期が手薄だと思う。それでも上半期の収獲の大きさに支えられて充実のベストテンになったと思う。選出に迷った場合は映画的冒険があるかどうかで判断した。自分ではなんのヒネリもないストレートなベストテンになってしまって、ちょっと意外性に欠けるかなと思うのだが、どうだろう。
①『MEMORIA メモリア』(2021年/アピチャッポン・ウィーラセタクン)
日が経つにつれ疑問が膨らんでいくシーンもあるのだが、それでも観終わった瞬間の印象は今年最も強烈だった。
②『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(2021年/ウェス・アンダーソン)
ビル・マーレイの中途半端な存在感が素晴らしい。彼の曖昧さと他の登場人物たちの輪郭の明確さのコントラストが映画全体を強化していると思う。
③『アネット』(2021年/レオス・カラックス)
突然のようにインサートされる劇的ショットにその都度はっとさせられる。次に何が起こるのか予想がつかず手に汗握るとはこのことかと思う。古典と先鋭の不協和音を大いに楽しむ。
④『ポゼッサー』(2020年/ブランドン・クローネンバーグ)
極めてシンプルでミニマルな物語。それに対比する不可思議な空間や街並みが生み出す夢遊病的におぼろげな世界も魅力だが、やはりなんといっても近年稀にみる物語のシンプルさによる強度が特筆に値すると思う。
⑤『春原さんのうた』(2021年/杉田協士)
表情に乏しい一見不可解な主人公とそれを取り巻く人々。この関係性だけでここまでの作品になるかという驚き。無表情から解かれ、主人公が涙を見せる時、登場人物が歌を口ずさむ時、私たちは心の底から安心する。なぜなら、存在はただそれだけを晒している時、私たちを不安にさせ怯えさせるからだ。存在の怯えと歓びを極めて日常的な生活感たっぷりの風景の中で描いた、繊細かつ大胆な決して忘れることができない作品。
⑥『麻希のいる世界』(2022年/塩田明彦)
塩田監督の主人公たちは、いつもしょせんは日常の延長にあるような取るに足らない会話をしながら、にも関わらず二度と戻れない別の場所まで行ってしまう。だから彼らが“ほんとうの気持ち”を表現するのは歌詞の文字だったり手紙の文字だったり、いつもテキストによる。塩田監督作品の醍醐味はこの言葉への不信から起こる行動の先行だ。そしてあくまで言葉で説得しようとする大人や男(少年)たちと女性たちとの衝突だ。それは、物語の主人公が考えるよりも先に行動しその行動が次の事件を引き起こすというハードボイルドの構造と同じだ。『害虫』(2002年)にせよ、少女が主人公の塩田監督作品はこの意味で、傷つき倒れながらも決して後には引かず命懸けで行動し“事件”を解決する少女たちのハードボイルドストーリーとも言えると思う。今回もその醍醐味が十分に味わえる作品だった。
⑦『ケイコ 目を澄ませて』(2022年/三宅唱)
主人公の行動記録のような味気ない日記が、街の情景に被せて淡々と他人に読み上げられるときに起こる言い表しようのない感動。土手に逆光でたたずむ人物の生命の力強さとそれすら包摂して溶かしてしまう世界の融通無碍な力への畏怖。確信的ショットの数々に貫かれた高純度の映画。
⑧『にわのすなば』(2022年/黒川幸則)
ほろ酔い、ふらつき、果てに湧き起こる疲れ。とらえどころがなく、見逃してしまいそうな、人間が根源的に抱える小さな小さな疲労感を、昼下がりの陽光の下に無防備にさらす。そんなデンジャラスな試みの映画。その危うさに、もう少し長く触れていたいと思わずにはいられない。
⑨『グリーン・ナイト』(2021年/デヴィッド・ロウリー)
このユーモア。この緩慢さ。それが生と死を反対側から照射する。約30年前のジム・ジャームッシュ監督の『デッドマン』(1995年)をひたすら思い出していたが、この作品特有の仰々しさが『デッドマン』を上回る可笑しみと、より一層グロテスクな死生観を醸し出す。
⑩『夜を走る』(2021年/佐向大)
ぎりぎりのきわきわを行く映画だと思う。観客がついていけなくなりそうなまさにぎりぎりのところまで突っ走るがしっかり掴んで離さない。破綻のない映画はつまらない。まるでそう宣言するかのように作られた挑発的作品。
林ウンソル
■私を虜にした映画5本
『ロスト・ドーター』(2021年/マギー・ギレンホール)
他人と自分が重なって見える時がある。勝手に自分とこの人は似てると思っても、自分より上手く生きてそうに見えたら自分自身が嫌いになったりもする。母親ではない1人の女性が渇望する自由、その中で感じる寂しさを語る映画。まだ親になったことはないけど、お母さんの気持ちがわかる気がした。いや、まだ理解できないかも。
『わたしは最悪。』(2021年/ヨアキム・トリアー)
ただのラブストーリーではない。女性のキャラクターに不足と欠陥があったとしても、あるがままが愛されてほしいという監督の言葉が良かった。限界に直面しながらも自我を探していく、自分の選択で人生を生きていく女性の話。私の選択で、わたしは最悪になってもいい。
『パリ13区』(2021年/ジャック・オディアール)
ちょうど東京タワーが見えるところで観たが、映画が、特にサントラが良すぎて、サントラを聴きながらエッフェル塔の代わりに東京タワーまで歩いて行った。
『ケイコ 目を澄ませて』(2022年/三宅唱)
音に満ちた世界の中で、目で相手を理解することについて。Small, Slow But Steadyという英題が、心に響いた。何もできないような時、すべて辞めて逃げたい時に「そんな自分」を信じて応援してくれる人がいたら、どうやって自分で自分をあきらめられるんだろうか。女性ボクサーのケイコは決して弱くない。そんな彼女から勇気をもらった。
『手』(2022年/松居大悟)
毎日この映画のことを考えてる。一番自分と似てる映画。自分のホントの本心は何だろう?何が欲しいんだろう?
■未知の世界に連れて行ってくれた映画5本
『リング・ワンダリング』(2021年/金子雅和)
絶滅した日本のオオカミを題材にした漫画を描く主人公。描くのがなかなか進まなくて、結局オオカミの跡を探しに出かけた彼の前に夢のようなことが繰り広げられる。ファンタジーなので、ある程度予想できるところもあるけれど、非常に面白いし、美しい。ひと冬のファンタジア。
『中村屋酒店の兄弟』(2019年/白磯大知)
映画が始まって10分は、音声のみの映像がないラジオドラマで、目を閉じて音だけを聴く。45分の本編と合わせると約60分の映画。その10分間のラジオドラマを聴くのが何より楽しくて興奮する。生きていて、劇場で、こんな貴重な経験をいつまたできるだろうか。
『バルド、偽りの記録と一握りの真実』(2022年/アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ)
奇怪で面白い。 何かを教えてもらうために映画を観るわけではないが、イニャリトゥの映画はいつも聞いたこともなく、知ろうとしたこともない世界を教えてくれる。「生と死」を一番上手に描く監督。人生そんなもんかな。なぜ好きなのか分からないけど、何かがずっと好きで、どこを歩いているのか分からなくても、足を動かし続ける。
『MEMORIA メモリア』(2021年/アピチャッポン・ウィーラセタクン)
ロングテイクで、テンポの遅いこの映画が好き。エンドロールが上がると同時に大変な喜びを感じた。サウンドがとても重要なこの映画はぜひ映画館で観てほしい。
『ファイアー·オブ·ラブ 火山に人生を捧げた夫婦』 (2022年/セーラ・ドーサ)
誰よりも火山を愛した火山学者同士の夫婦の物語。映画では、恋は「理解」だと語っていた。お互いを理解したお二人は、その次に火山を理解することにする。愛が火山のように爆発するドキュメンタリー映画。
2022年は映画を通じて自分の世界が広がりました。未知の世界は恐怖ではなく興味を抱く対象だと。やはり私、安全であるより危険なことが好きかもです。
カンサイラ
映画に限らず何事も2択さえ選べない私なので、昨年を振り返った時に思いつく作品をいくつか選んでみました。正直昨年は個人的に、自分の人生を生きるのに精一杯で全然映画を見れなかったなあ…と後悔が残る一年だったのですが、そんな中でも素敵な出会いだったと思う作品を紹介させていただきます。
『ボーン・アイデンティティー』(2002年/ダグ・リーマン)
物語のスピード感と主役のマット・デイモンが繰り広げるアクションシーンのカッコよさが、大の苦手だったアクション映画を克服するきっかけになった作品です。
『プリーズ・ライク・ミー』(2013~2016年/ジョシュ・トーマス、マシュー・サヴィル)
留学中の心の拠り所になってくれたオーストラリアのドラマシリーズ作品。出てくる人物揃いも揃ってみんなどうしようもないのに愛おしく感じて、「人生ってなんでこうなんだろう」みたいな、些細な地獄を潜ませながら進んでいく日常が私にとってはむしろ心地よかった記憶があります。
『恋する惑星』(1994年/ウォン・カーウァイ)
台湾留学中にリバイバル上映されていて、現地の映画館に初めて足を運んで観に行った思い出の作品。舞台は香港なので、聖地巡礼!とかそういう訳では無いのですが、鑑賞後何故か満足感とか幸福感で満ち溢れたんですよね。以降数ヶ月はフェイ・ウォンの「夢中人」始め劇中歌でプレイリストを作って生活のBGMにしていました。
『Mommy/マミー』(2014年/グザヴィエ・ドラン)
愛の残酷さとか、暴力性とか、美しさとか、色んな側面を見た気がします。自分的ベストに近い作品なのですが、これ以上何か言おうとすると自分の話をだらだらしてしまいそうなのでやめておきます。
『瀑布』(2021年/チョン・モンホン)
『ひとつの太陽』のチョン・モンホン監督の最新作。前作同様、終始不穏なのですが、ラストシーンを見た時に「やっぱりこの監督の作品、好きだなぁ」と再確認しました。
『14歳の栞』(2021年/竹林亮)
あの日の息苦しさとか、積み重なった小さな後悔とか、向き合って来なかった過去をようやく思い出にできる気がしました。昨年一番観ることが出来て良かったと心から思えた作品です。
『沓掛時次郎 遊侠一匹』(1966年/加藤泰)
出会いという意味ではこの作品は外せない!当館の東映特集で上映した作品の中のひとつですが、正直このタイミングで出会わなかったら一生見ることが無かっただろうなとも思うし、そんなこと考えただけで怖くなるくらい、初めて終映後に拍手したくなったくらい、もうそれはそれは最高に良かったです。この作品に出会わせてくれたさとみんさんにめちゃくちゃ感謝を伝えてしまうくらい良かったです。私同様あまり馴染みがないであろう10代や20代の方にも是非とも観て欲しい……!
『アザー・ミュージック』(2019年/プロマ・バスー、ロブ・ハッチ=ミラー)
Strangerに身を置く人間としてどうしても選ばずにはいられない一本です。終始自らと重ねながら「こんな風に自分にとって大切だと思える場所があるって当たり前じゃないよな、自分って幸せ者だな」なんて考えてました。この空間が私だけじゃなくて誰かにとってもそんな場所になれたら良いな。頑張ります。
鈴木里実
2022年特に好きだった映画(ほぼ鑑賞順、劇場初見鑑賞作品に限る)
★新作6本
『クライ・マッチョ』(2021年/クリント・イーストウッド)
『ザ・ロストシティ』(2022年/アーロン・ニー&アダム・ニー)
『炎のデス・ポリス』(2021年/ジョー・カーナハン)
『ケイコ 目を澄ませて』(2022年/三宅唱)
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(2022年/ジェームズ・キャメロン)
『夜を走る』(2021年/佐向大)
★旧作10本
『北京オペラブルース』(1986年/ツイ・ハーク)
『ラスティ・メン』(1952年/ニコラス・レイ)
『好色日本性豪夜話』(1971年/図師巌)
『性のピンチ』(1973年/秋津隆二)
『ナチに愛された女』(1943年/ドロシー・アーズナー)
『望まれざる者』(1949年/エルマー・クリフトン、アイダ・ルピノ)
『人生の高度計』(1933年/ドロシー・アーズナー)
『明日は日本晴れ』(1948年/清水宏)
『むかしの歌』(1939年/石田民三)
『戦争と母性』(1933年/ジョン・フォード)
新年早々言い訳がましく不甲斐ないのですが、2022年は前半に趣味で続けている日本舞踊の名取試験(無事に合格しました!)、後半にStrangerオープンからの東映特集&『ゲット・クレイジー』と慌ただしく(ご来場いただいた皆様、お世話になった皆々様本当にありがとうございました)、映画鑑賞の時間を思うように取れなかったので、劇場で見る映画自体が例年より厳選されたものとなってしまいました。その為かアメリカに毒された私というものが如実に表れた形となっていて自分でもびっくり。イーストウッド教の自分でさえベストに入れていいものか正直迷っていたここ数年の監督作の中でも更に迷うこととなった『クライ・マッチョ』から、まさかここまで感動すると思わなかった『アバター』続編まで、アメリカの爺さんで始まりアメリカの爺さんで締め括られた2022年の新作でした。と、まとめた後にStranger上映作品として試写をした『夜を走る』に大興奮、職権濫用&鑑賞日時詐欺でちょっとズルしちゃいましたが2022年作品にどうしても入れたくて入れてしまいました。
旧作では、なんと言っても石田民三(国立映画アーカイブ「東宝の90年 モダンと革新の映画史」小特集「没後50年 映画監督 石田民三」)と六邦映画(ラピュタ阿佐ヶ谷「本宮映画劇場presents 六邦映画 6つの桃色秘宝」)を知った年として記憶に残るに違いありません。静かに、しかし確かに輝くきめ細やかさを持つ石田民三作品、限られた制作環境の中でも自由に大きく羽ばたく六邦映画に見事にやられました。シネマヴェーラでの「アメリカ映画史上の女性先駆者たち」からは3本も。いずれも映画全体というより強烈に残るワンシーンのある映画です。国立映画アーカイブで見た『明日は日本晴れ』(「発掘された映画たち2022」)は、この映画に出会えたこと自体が幸福と思えるほどに素晴らしく、清水宏監督に改めて感嘆したのでした。今思い出しても胸がキュゥっとなります。それにしてもやはり劇場鑑賞本数が少なく不完全燃焼な感じは否めないので、今年はもっと見る!と決意をここで表明させて頂きます。
■六邦映画
『好色日本性豪夜話』を見た勢いで深夜に刺繍した六邦映画ロゴ。いろいろ制限はあっただろうにあまりに自由で大らかで伸び伸びとしていて大感激でした。六邦映画に出ている谷さんがまた潑剌としていて素敵。この刺繍はこの後、六邦映画特集を企画された本宮映画劇場さまへお贈りしました。
■『人生の高度計』
キャサリン・ヘプバーンが仮装パーティーで着る衣装“シルバー・モス”は強烈でした。あの場面であの衣装を着る主人公に思いを寄せずにはいられません。映画は白黒ですがスチールなどから考察してカラー化(衣装デザインは偉大なるウォルター・プランケット)!
■石田民三
『花つみ日記』(1939年)より、主人公の憧れの梶山先生へ渡すことのできなかった刺繍のタペストリーの贈り物、映画に登場したその芙蓉のタペストリーを記憶を辿りながら刺繍してみました。主人公・栄子とその友人・みつるのイニシャル入りです。
瀧ヶ崎志帆
たきすたー2022年ベストシネマ🎬
1位 『RRR』(2022年/S・S・ラージャマウリ)
2022年群を抜く面白さ!
インド映画のレベルの高さを改めて痛感!
「ここもかあー!」と最後の最後まで全ての気持ちを満たしてくれます…。
軽快なナートゥダンスとチームワーク抜群の戦闘シーンは爽快すぎて気持ちが良すぎる!!!
人種差別、戦争という大きなテーマ性の中にあらゆる要素が凝縮された超大作だと思います!
2位 『ちょっと思い出しただけ』(2021年/松居大悟)
私は映画館に3回観に行きました…。
作品を引き立てるクリープハイプの主題歌が最高に沁みる!
頭に浮かぶ、今の自分をつくる過ぎ去りし時間と思い出が懐かしく切なく愛おしい…。
観た後は「ちょっと思い出しただけだし!」と自分自身に語りかけてしまう作品です…!
池松壮亮さんと伊藤沙莉さんのリアルすぎる演技に胸を掴まれます…。
3位 『ベルファスト』(2021年/ケネス・ブラナー)
激動の時代の北アイルランドのベルファストで生きる少年と、その家族や友人、街の方々の葛藤を描いた作品ですが、悲しみや辛さだけを追うのではない素敵な描き方をしている演出にあっぱれなんです!そこに合わさるヴァン・モリソンの歌がめちゃくちゃ良い!!!
モノクロとカラーを巧みに使用した冒頭からグッと掴まれ、見終わった後は目が腫れました…。
4位 『すずめの戸締まり』(2022年/新海誠)
新海誠監督の集大成と言われてますが、まさにそれを体感します…!後から追加したと言われている後半のとあるシーンが一番印象的でした。
震災から時を経た今だからこそ観るべき作品であり、地震が目に見えるとしたらきっと本当にミミズみたいなものなんだろう…と想像しました。見終わった後の数日は、家の鍵を閉めるたびに「お返し申す!」と言ってみたり、御茶ノ水にロケ地巡りに行ったりと鑑賞後も世界に浸った作品です!
5位 『ひまわり』(1970年/ヴィットリオ・デ・シーカ)
ウクライナ支援であらゆる映画館で上映されていて、初めて鑑賞した作品でした。
戦争によって引き裂かれた2人それぞれの立場と経験した状況がイマジネーションとなって、苦しく切なく号泣しました…。
現在のウクライナ情勢とも重なり、改めて平和を願うばかりでした。
ソフィア・ローレンさんのスタイルのよさとアントニオが24個の卵で作るボリューミーなオムレツにも注目です!
6位 『PLAN 75』(2022年/早川千絵)
本当に近い未来にあり得そうなリアルな設定に、フィクションとは思えない怖さと重みを感じた作品です…。75歳以上から国の補助の元、生死を選択できる社会を舞台に、選択する側の75歳以上だったら…、その友人の立場だったら…、もし自分の家族が選択したら…と、それぞれの状況に身を置くことでズシッときて、映画館を出た後の街に響く何かの呼び込みも<プラン75>かと思う程の余韻でした…。
7位 『永遠の1分。』(2022年/曽根剛)
『カメラを止めるな!』(2017年)チームの曽根剛さんが監督、上田慎一郎さんが脚本!コメディ映画を撮るアメリカ人の2人が3.11の震災を題材にした映画を作ることになるのですが、悲しみや辛さではなく「笑顔」「笑い」をキーワードに被災地の方々の思いや現状を描いた点に今までにない挑戦を感じました!!!震災から10年以上経つ今、観てよかった作品です。主演の『コンフィデンスマンJP』シリーズの執事役でお馴染みのマイケル・キダさんと曽根剛監督から舞台挨拶後に直にお話を聞けた印象的な作品です!
8位 『高津川』 (2019年/錦織良成)
島根県・高津川の流域を舞台に伝統芸能の継承の問題や、古き良きもの、場所が失われていく時代の変化と人の繋がりが描かれています。
新たに何かを始め変わっていくことよりも、思い続け、継続することの方が難しく、容易いことではないと感じました。地元や大好きな各地のミニシアターや喫茶店を訪れたときに感じるタイムスリップする感覚は、守る人や想いがあるからこそ存続し得るんだと有り難みを感じました。
この映画をきっかけに、私も映画を、映画館の良さを伝えたいと思った作品です。
9位 『風が吹くまま』 (1999年/アッバス・キアロスタミ)
大分の日田シネマテーク・リベルテさんで鑑賞し、イラン映画の面白さを体感しました!
ある村の葬儀の様子を撮影する為、もう間近だと噂されている老婆の死を待つ都会から来たカメラクルーですが、なかなかそれが訪れない…(苦笑)という設定も面白すぎる! 死を待つ中で、村の日常に徐々に溶け込み、対比する生を感じる…静かな映画ですが、人の一生について考えさせられる壮大なテーマを感じました!
また、ミニチュアのような可愛いカラフルな街並みや、カメラクルーの同僚の部屋が敢えて見えないカメラワークもユニークで、アッバス監督なだけあり、アッパレでした!
10位 『幸福の黄色いハンカチ』(1977年/山田洋次)
青梅のCINEMA NEKOさんで鑑賞し、大号泣しました。作品自体は知ってはいましたが、今まで観た事がありませんでした。ハンカチの印が果たして「あるの?!ないの?!あってくれー!」…と、一緒に胸が苦しくなる程ドキドキしながら観ました…。若かりし桃井かおりさんのファッションと高倉健さんのビールの飲みっぷりも印象的です!武田鉄矢さんはこの作品で初めて演技に挑戦したらしいのですが笑いのスパイスをふりまく名演技でした!
『ベルファスト』はパリから帰国する飛行機で観ましたが、それ以外は映画館で観た作品です。
基本目が腫れるくらい涙した作品が集結しました笑
自ら気になって観たものもありますが、
2022年の1つの特徴として、
旅先で訪れた際にたまたま上映していた作品や、そこで出会った方に紹介してもらって観た作品、一昨年から読み始めた新聞がきっかけで興味を持った作品や題材があるなあ…と思います。いつもよりも自己嗜好に偏らない幅広いジャンルとなった気がします。
映画の世界は限りなく広い広い…広すぎますが、
広すぎるからこそ、誰かや何かがきっかけになり、すっと湧き上がって出会う、まさに映画のセレクトショップが人であり映画館なんだと思いました。
2023年はただ観るだけではなく、
私から誰かに紹介できる力量を
蓄えたいと思います…!!!
増田陽和
新作旧作ごちゃ混ぜですが、2022年に初めて鑑賞し印象に残った6本です。
① 『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス湖畔通り23番地』(1975年/シャンタル・アケルマン)
身振り手振りのような演劇的な映像を撮影するのではなく、何の変哲もない平坦な映像と音響を組み立て、その関係性を見つめ直す。そこで得られる表現は、観ていてとても幸せでした。ジャンヌのたてる物音のリズムは一曲の音楽を聴いているようで、それだけでも楽しめました。
② 『ストレンジ・リトル・キャット』(2013年/ラモン・チュルヒャー)
同じ屋根の下で暮らす家族といえども、所詮は他人で、全く別の生き物。自分の実家を見ているようで、大嫌いで、大好きな映画です。
③『春』(1970年/マルセル・アヌーン)
交互に描かれる、農家の少女と警察から逃げる男。「一つの色が他の色との接触によって変化するように、映像は他の映像との接触によって変化しなければならない」というブレッソンの言葉を思い出しました。
④『TITANE チタン』(2021年/ジュリア・デュクルノー)
こんなにも自由で刺激的なラブストーリーを観るのは初めての体験でした。自分にとって最も大切な作品のひとつです。
⑤『DECORADO』(2016年/アルベルト・バスケス)
YouTubeで鑑賞できるスペインの短編アニメ映画です。主人公は自分の感じている幸せや愛、周りのものすべてをセットのような人工的に作られたもののように感じ、苦しんでいます。
⑥ 『バーバリアン』(2022年/ザック・クレッガー)
怖くて、笑えて、楽しくて、ちょっと哀しい、2022年一番のホラー映画でした。
八坂百恵
映像作品なら何でも可ということなので、幅広く選んでみました。鑑賞順、感想にネタバレあり。新旧ごちゃまぜですが、旧作にはなるべく、理由あって2022年に観る機会を得た作品を選んでいます。
『シモーヌ・バルベス、あるいは淑徳』(1980年/マリー=クロード・トレユー)
ワインを飲みながら映画館の受付の仕事をするところから始まる。レズビアンバーに若い人からお婆さんまでいるのも良いし、フェミニズムの歌詞のロック音楽を一曲まるまる聴かせたあと、銃とか車とかのマスキュリンなモチーフで映画が展開していくのも面白い。主人公のキャラクターのおかげか、カラッとしているのもよかった。空が明るくなるまでドライブして、建物の明かりが消えて終幕。配信で観た。映画館で観たい……。
『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』12話「タチコマの家出 映画監督の夢 ESCAPE FROM」(2003年/神山健治)
1月、コロナに感染して自宅療養期間中、すごく暇だったので攻殻機動隊アニメシリーズを全て観た。そのなかでもお気に入りの回で、映画をみることについての話。気持ちがささくれて映画館から足が遠のいている時期でもあったが、やっぱり私は映画と映画館が好きかもしれない、と思い返すきっかけになった。
『平家物語』(2022年/山田尚子)
悲しくて優しくて良かった。1月放送ながら、2022年の覇権アニメだと思っています。
『ブラックボックス:音声分析捜査』(2021年/ヤン・ゴズラン)
繊細な音の演出で、物語にぐんぐん惹き込むサスペンス映画。神経質でこだわりが強い主人公を演じるピエール・ニネも良い。サラウンドの質がいい映画館で観れて良かった。
『アネット』(2021年/レオス・カラックス)
華やかな悪夢を観た気分。鑑賞後、2日間ぐらいボンヤリしていた。とくに劇場から帰宅後が一番ボンヤリしていて、気付いたら「簡単にご飯作って食べよう……」と思いながら歯を磨いていた。一番頭が変になりそうだったのは、ラストシーンのあの子が、キャリアを積んだ30代ぐらいの女優に見えたことです。
『Few of Us』(1996年/シャルナス・バルタス)
列車が流れているところを遠くから定点カメラで撮るだけのファーストショットで、この映画を信頼してもいいことが約束されてる。日本未公開ですが、なぜかインターネットの海で拾えます。セリフが全然無いので字幕なしでも大丈夫です。
『HiGH&LOW THE WORST X』(2022年/二宮”NINO”大輔、平沼紀久)
顔の綺麗な男がめちゃくちゃ喧嘩強い映画はだいたい好き。クライマックスの喧嘩でのカメラワークも最高。鑑賞後、散歩中に釣り堀を見かけるたびに「俺もしゃべんねえし、こいつもしゃべんねえ。ただ隣で釣り糸たらしてんのが…なんか……ラクっつうか……」を脳内再生するようになった。ひとつ難癖をつけると、今回の「仲間!友情!たすけあい!」みたいなヤンキー像より、ハイロー初期の「普段は睨み合っているが、ひとつの強大な敵に向かって各々の理由で立ち上がる」ヤンキー像のほうが好みです。
『マイ・ブロークン・マリコ』(2022年/タナダユキ)
窪田正孝が良い。あんなに「そこに居るだけ」の佇まいができるなんて。窪田正孝の「大丈夫に見えますよ」で、私まで大丈夫になりました。
『私、あなた、彼、彼女』(1974年/シャンタル・アケルマン)
こぼした砂糖を床からスプーンですくって口に運ぶ怠惰さ、あの横になる以外何もできない感じに、ものすごく心当たりがある。私や!と思った。最後に出てくる、仕方なく面倒をみてくれる綺麗なお姉さんも好き。
『《ジャンヌ・ディエルマン》をめぐって』(1975年/サミー・フレー)
フェミニストのデルフィーヌ・セイリグと30代の女性録音技師が、一般の撮影現場で女性が置かれる環境をめぐって衝突を起こして、対立はその場では乗り越えられず、それがフィルムに撮られ映画に残されていた。そのシーンに続くラストショットも良かった。
『RRR』(2022年/S・S・ラージャマウリ)
革命についての映画!最後に帝国支配がどうなったかの描写がなかったのも、個人的には良かった。ナーートゥナトゥナトゥナトゥナトゥナトゥ
『土手』(2021年/三宅唱)
石ころの上を流れる川の水だとか土手だとかを撮って並べるだけでこんなに面白いなんて…何が起こってるんだ……。
『THE FIRST SLAM DUNK』(2022年/井上雄彦)
2年前に『フォードvsフェラーリ』(2019年)を観て以来久しぶりに、映画館で手汗びっしょりになりました。クライマックスの速さの表現も凄い。
『ケイコ 目を澄ませて』(2022年/三宅唱)
劇場を出てからしばらく、環境音がサラウンドシステムで聞こえた。映画館での映画鑑賞なんて、究極それだけでいいと思えた。
吉田晴妃
2022年は個人的にも思わぬ出来事が色々あった一年だったので、白状すると特に下半期はあまり映画を見ていない。そんな体たらくでベストテンを選ぶなんて、とどこか後ろめたいような気持ちを感じつつも、一個人の映画鑑賞の記録として残しておくことの意味もあるのだと思いたい。
映画館で見るものだけが映画だと思っているわけではないけれど、自分にとってはやはりほかの手段で見たものよりもずっと強烈に記憶に残っているので、2022年にスクリーンで鑑賞した作品から、見ることができて良かったと感じたものを制作年にこだわらず鑑賞順に挙げてみた。
『麻希のいる世界』(2022年/塩田明彦)
冒頭のものすごい音をたてて軋みながら開く扉にはじまり、歌声やノイズといった「音」が印象的な世界にあって、最後に主人公がただ音もなく流す涙に痺れた。
『春原さんのうた』(2021年/杉田協士)
すごく穏やかで静かな映画で、はっきりとしたストーリーラインは説明されない。主人公や、彼女に接する登場人物たちがどういう人なのかもすぐにはよくわからない。いったいこの人はどんな人で、何を考えてこんなことを話しているのかを推し量りながら見ていた。その感覚は、結局のところ、自分以外のひとの考えていることはよくわからないという現実のコミュニケーションの中を生きている感じととてもよく似ていたと思う。
『アネット』(2021年/レオス・カラックス)
自分たちが作っているものは映画で、あなたたちが今見ているものも映画なんだ、という自意識をこんなにも臆することなく堂々と纏っている映画は久しぶりのような気がして、観ていて本当に楽しかったし、揺るがない在り方の映画という感じがした。
『アンナの出会い』(1978年/シャンタル・アケルマン)
旅をする主人公が、いかにも映画監督らしいことをするわけでもなく、映画に対する哲学を何か見せつけてくるわけでもなく、もはや方々をあてどなくさすらっている女性にしか思えないところがたまらなく大好きな映画。
『花ちりぬ』(1938年/石田民三)
閉ざされた場所の中で、今まさに、という時間を生きている色んな登場人物の視点を難なく行き来してみせる語り方が魔法のようでびっくり。すごいものを見たという感じがした。
『ナイトメア・アリー』(2021年/ギレルモ・デル・トロ)
現代にあってこの作品以外には存在しえないような気がするくらいの豪華なハリウッド・ゴシックという感じがして、衣装や美術、映画のもつ世界観を堪能。リメイクということもあってか映画そのものとしての目新しい何かを掴めたわけではないけれど、好きなものに対して真っ直ぐに作っている感じがして好きな映画だった。
『ゴー!☆ゴー!アメリカ/我ら放浪族』(1985年/アルバート・ブルックス)
たとえばすごくいい映画やいい本を読んだときに感じる、それにひきかえ自分なんて…というほろ苦い感情を形にしたようなクレイジーでチャーミングな映画……ながら、カジノで有り金全部すってしまうところは笑えないくらいガチな雰囲気があったのが忘れられない。ひとつひとつの場面がいちいち面白い。
「四季」シリーズ(1968~1972年/マルセル・アヌーン)
制作年代順に続けて一挙に鑑賞したせいか、4作合わせて1本の映画のように思えてしまう。作り手の「映画」というものへの関心が、無邪気な試行錯誤から次第にはっきり輪郭を帯びて、どんどん尖っていく感じを目撃できたかのようでものすごく面白かった。
『秘密の森の、その向こう』(2021年/セリーヌ・シアマ)
決して大仰な話をしようとしているのではなくて、フラットな視点から母子の関係を描くところが好きな作品だったし、非力な子供のための慰めとしてファンタジーを描かないところも素敵だった。
『イルマ・ヴェップ(ドラマシリーズ)』(2021年/オリヴィエ・アサイヤス)
映画ってこんなことしちゃっていいのか…?とちょっとハラハラしつつ、ベストに入れたいと思ったのは作り手と観客が1996年の『イルマ・ヴェップ』という同じ過去を共有しながらも、まさしく「今」の映画を作る/見るということのスリルを持って2022年にある映画、という感じがしたので。
Strangerスタッフによる2023年映画ベスト&お客様アンケート「2023年の映画ベスト」結果発表
涌井次郎(わくいじろう/輸入映画ソフト専門店「ビデオマーケット」店主)
1970年生まれ。新潟県上越市出身。
柳下 毅一郎(やなした・きいちろう/特殊翻訳家・映画評論家・殺人研究家)
一九六三年大阪生まれ。雑誌『宝島』の編集者を経てフリー。
堀 潤之(ほり・じゅんじ/映画研究・表象文化論)
一九七六年生まれ。専門は映画研究、表象文化論。関西大学文学部教授。
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